A子は怠け者だが、テレビに出たい願望はひとしおだった。もちろん、何の努力もしないので、テレビに出ることはありえない。
そういうある日、テレビを見ながらA子は簡単にテレビに出る方法に気づいた。
テレビには成田空港に至る新幹線の開業のニュースをやっていたが、そこには一番乗りした女の子として、「乗りたがり成田ガール」というテロップが出ていたのだ。
そうだ!
私も、乗りたがり成田ガールになりたい!
それは簡単に思えた。
行列するマニアはみんな男ばかりだ。要するに行列の紅一点、女性であればいいのだ。綺麗である必要もない。若い必要もない。女でありさえすればちやほやされる世界だ。
怠け者のA子はひたすら待った。何しろ怠け者だから遠く離れた地域の新路線に並ぶ訳には行かなかったのである。
A子はテレビを見ながら毎日毎日苦しい日々を送って待った。それぐらい苦しいのなら、日本全国どこにでも新路線の開業に行けば良いのだが、行かなかった。何しろ筋金入りの怠け者である。
しかし、ついにA子の地元にも新路線の計画が起こった。
A子は驚喜し、さっそく地元駅に並ぶことにした。そして開業日の早朝に駅に出向いて驚いた。とっくの昔に徹夜組が行列を完成させており、到底朝から行って並べる状況ではなかった。しかも、女性の姿もちらほら見られ、しかも中にはA子より若く、綺麗な娘までいた。
しかも、とっくにマスコミの取材は来ているという。いくら早起きしても間に合わないぐらい早いのだ。もちろん、ねぼすけのA子がいくら早起きしても本当の早起きには勝てない。
A子は途方に暮れた。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
夕方のニュースの取材はこれからであった。取材クルーはもちろんA子ではなく、もっと若くて綺麗な子を写そうとする。
A子は思わず対抗意識を燃やして自分のスカートをめくって見せた。
ところが、夕方のニュースをいくら見てもA子は写らない。
A子は「あそこまでサービスしたのになぜ?」と思ったが、ネットを検索してすぐに理解した。
ネット上ではA子の話題で持ちきりであった。そして、ついた名前がこれだ。
「出たがりデルタガール」
そこにA子の母親が言いました。
「今朝は下着を着るのも忘れてどこへ行ったの?」
穴があったら入りたいA子であったが、ネットの騒ぎは2~3日も続いた。
(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)
★★ 遠野秋彦の他作品はここから!