歴史に唯一の正解なし。
というのは、考えてみれば当たり前のことです。そもそも、同じ何かの出来事を見た人間の間ですら解釈に差がある以上、間接伝聞である「歴史」が1つになるわけがありません。そういう意味で、「オレ達が正しい歴史を教えてやる」という態度は常に誤りです。現場を見た人間であっても、見た内容は1つの解釈でしかありません。また、「そう書いてある当時の公式の資料を発見したから絶対に正しい」という主張も成り立ちません。公式の資料の中身が誠実であるという根拠もないどころか、問題をやり過ごすためにわざわざ改変している可能性もあるし、そもそも見た人の解釈に依存します。
そういうことからすると、ヤマトファンはたった1つの解釈の否定に晒され続けたと言えます。そもそも、根拠となる現実すら無いので、なおさら1つになりようがありません。もともと石津嵐版もひおあきら版もテレビとは全くの別物です。
更に、衝撃的だったのが若桜木虔版「さらば宇宙戦艦ヤマト」でしょう。これは、石津嵐版やひおあきら版と違って、基本線は忠実です。しかし、都市帝国がアメリカぐらい、超巨大戦艦が日本列島ぐらいとしてあって、映画の設定と違います。そうなると、基本線が同じだけに全く違う作品としても受容できません。最初の映画の時と違って時間の都合でやむを得ず、という解釈もできません。そのあたりも、ある種のトラウマでかつヤマトファンの心を強く鍛える効能があったものと思われます。
というわけで。ごく最近になって知った驚愕の事実。
それは、「若桜木虔」が「霧島那智」(の1人)だったということです。
最近名前を見る頻度が減ったと思ったら、こういう名前で本屋に並んでいたとは。一応、新書のコーナーはチェックしているので、霧島那智の架空戦記がしばしば並んでいるのを見ていますよ。
ちなみに、当時はけっこう「若桜木虔」の小説は読んでいて、アンドロイド・ジュディ等が面白かったという記憶が残ります。
余談 §
とはいえ、ヤマト小説の最終決定版になったのは「熱血小説」であり、若桜木虔版ではないようです。
そのあたりの事情は良く分かりませんが、おそらく作品のしての優劣ではなく、作り手のバックグラウンドの理解が今ひとつだったからではないか、という気もします。つまり、戦前の冒険小説への理解が十分ではなかった、ということです。その結果、何か描ききれないものがあり、最終的に戦前の冒険小説家に頼むことになってしまったのではないか、と言う気がします。
とすれば、もしかしたら、もっと待てば吉岡平がそれを書けたのではないかという気もします。というのは、「北海の堕天使」は他の架空戦記の多くがゲーム的な内容に終始しているのに対して、内容が「戦前の冒険小説的」だからです。ブーム前に書かれていることもあり、「架空戦記はゲームのように歴史を扱う」という約束事から逸脱しているとも言えます。架空戦記ブームの起点のように扱われることもありますが、中身はそういう感じではありません。そして、無責任艦長タイラーの原点はヤマトではなく丸であると言ってしまい、自著のタイラーを丸ごと改編してリメイク小説を出してしまうぐらいだからこそ、逆説的にヤマトの決定版小説を書けたかも知れないと思いつつ、時代が上手く噛み合いませんね。残念。
(ただし、今から依頼して上手く行くかは知らない。今や「萌え」作品をやっている作家なのだから、吉岡平はもうチェックもしていない。私はただのヤマトファンであって、萌えには一切興味がないのである。従って、痛機にも痛戦車にも興味はないのである。陸自のシャーマンが出てくる昔の特撮映画には興味があってもね)
追記・ヤマトの土方歳三 §
なんとなく「火星の土方歳三」(吉岡平)を思い出しました。
新撰組の土方歳三が、ジョン・カーターのようにさしたる理由もなく火星に行く話です。火星の大統領カーターより面白かったという感想が残ります。
ならば、「さらば」のヤマト艦内に新撰組の土方歳三が転生する話もありかも。地球防衛軍の指揮系統から離れたヤマトを自由に新撰組風に改編し、自分は艦長席に座るわけです。本物の土方は負けた責任を取って治療せず切腹させます。そして、勝手にヤマト2代目艦長の土方だ、と名乗るわけです。ただし、沖田は既にいたのかと沖田役は指名せず、山南役は嫌いだから指名せず。かろうじて過去の艦長と未来の艦長との混乱は回避されます。そして、最後は都市帝国相手にサンダビーダ要塞で討ち死にするわけですね。
「サンダビーダ要塞ってなんですか?」
「強いて言えば、五稜郭のような宇宙要塞かな」
「なんでそんな名前になってるねん」
「でも討ち死にするだけで負けちゃうわけです。そして地球防衛会議で藤堂長官が皮肉を言われていじめられちゃうわけですね。宇宙要塞13号はこのライターと同じだな。役立たずということだ」
「さっきと名前が違いますがな」
「で、誠の旗はもう古いので、今度は烈の文字をはためかせて宇宙を行くわけです」
「空気が無いからはためきません」
「じゃあ、はためかせ係が宇宙服を着てうちわで旗を仰ぐ!」
「それでも空気がないからはためきません!」
「そ、そうか。伝達する空気がないからはためかないのか」
「今頃、はたと気付くな! ってか、もうアルカディア号には空気を噴出するはためかせ装置付きじゃ!」