「あはは。こんな文章を書く日が来たとは」
「映画、シャーロック・ホームズのおかげ」
「さて問題は魔法だね」
「魔法だ」
「最初に1つ言っておく」
「なんだい?」
「魔法というモチーフはけっこう好きだぞ」
「アニメでも、魔法使いサリーちゃんから始まる一連のシリーズがあり、奥様は魔女なんていうのもある」
「マハリクマハリター」
「更に言えば、ヤマトは宇宙でものが下に落ちるから科学的ではないと言い切るような想像力のない奴も嫌いだ」
「なるほど。この世界は神秘に満ちあふれ、風水を意識して、気を呼び込むといいのだね?」
「まさか!」
「というと?」
「魔法とは実在するものかい?」
「でも好きなんだろう?」
「好き嫌いと実在するかの話は全く別だ」
「というと?」
「魔法というのを科学では説明できない不思議な出来事やパワーの総称としよう」
「うん」
「それは本当に実在するのかい?」
「それは……」
「たとえば、テクマクマヤコンというと変身できるコンパクトを見たことがあるのかい?」
「いや、無いな」
「まあ、もしかしたらカトマンズに行ったらクマリちゃんがサイコフライトしている可能性は完全否定しないでおこう。実際、カトマンズに行ったこともないし、クマリちゃんに会ったこともないからね」
「ちゃん付けとは山田ミネコ作品的だね」
「しかし、我々が生きているこの身近な世界にはまずそんなものは存在しない」
「じゃあ、存在すると言っているのは」
「まずたいていの場合、詐欺師とカモと子供だ」
「なるほど。叩けば埃が出るのが詐欺師。教祖の主張を繰り返すだけならカモ。で、子供は?」
「サンタさんという魔法を卒業して大人になるのが子供。みたいな感じで魔法は存在しないと学んで大人になる存在さ」
「でも、そうするとカモと子供は概念として重なるのではないかな?」
「うん。精神が子供だとカモられやすいという傾向はあるかもしれない」
「それで?」
「頭では分かっているつもりでも、常日頃から魔法の行使をやっていると、つい魔法の存在を前提に行動してしまうのではないだろうか?」
「おいおい。無いに使えるのかい?」
「コンピュータゲームでは魔法が使えるケースが山ほどあるさ」
「それは現実ではないぞ」
「現実ではないが、現実に匹敵するリアリティを持った仮想現実であるケースもある」
「つまり、何が言いたいの?」
「魔法が使用できる仮想現実が氾濫しているために、実は子供が大人になる変化が阻害されているのではないだろうか」
「つまり?」
「大人はいい。現実は現実と割り切れる。しかし子供は違う」
「もっと具体的に言うと?」
「子供から大人に変わる年齢が後退しているのではないだろうか」
「もう二十歳じゃない?」
「昔も、本当に二十歳で大人であったか怪しいが、今はもっと後退しているのではないか」
「じゃあ。三十?」
「もっと年上でも子供っぽいことを言う人は言うよ」
「それってどういうことだろう?」
「頭が柔軟な若い内に厳しい現実に叩き込んで分かっていただくと効率が良いのだが、そのタイミングが遅れると著しく修正が困難になる」
「その結果起こることは?」
「偉大なる魔法王国という名の子供社会の到来さ」
「そんな社会が本当にあり得るの?」
「親世代の遺産を食いつぶして済まされる範囲内ではあり得るだろう」
「悲惨な未来だね」
「未来の仮定じゃないぞ。既にそうなり始めている」
「悲惨な現在だね」
「よく、昔に比べて今の人は……という人がいるけどが、今の人間が一律にダメだとは必ずしも思わない」
「今時の若者は……という話はどの時代にもあるというしね」
「でも、成熟が遅くなっていて、三十になっても四十になっても子供という事例は増えてきているように思う」
「つまり、人がダメになったのではなく、成熟が遅れてきているから以前に比べてダメに見えるようになってきた、ということだね」
「そう。同じような人間を取ってきて劣っているわけではないが、同一年齢での中身は落ちている可能性が高くなる」
「比較対象の問題だね」
「そうかもしれないが、本当のところは良く分からない」
「で? 結論は?」
「形式的に大人の姿をしてどこかの企業の名刺を持ってスーツを着て出てきても本当に大人であるか分からない。そういう時代になったということさ。特にネットはそんなものだ」
「寒い時代だねえ」
「三十になっても四十になっても、それって大人としてどうなのよ、という態度で接してきたら子供扱いされるのは当然と思えよ、ということだね」
「つまり、二十歳は成人とは見なせない?」
「単に形式的に成人式やってるだけの年齢でしょ。いつ大人になるかは人それぞれだしね」
「じゃあ、三十なら成人とも言えない?」
「言えない言えない。それこそ、人それぞれだからね。苦労していれば二十歳で十分に成人扱いできるかも知れないし、四十歳でもまだ心は子供という事例もあるだろう」
「とすれば、一人一人を見て対応を決めないとならないね」
「そうさ。大変な時代になったものさ」