ドミトリーは猿でした。
ずっと動物園の猿山で暮らしていたドミトリーも、ついに天国に召されました。
天国はそれはもう素晴らしいところで、酒池肉林の理想的な場所でした。
天国には、ドミトリーが猿であることを気にせず相手をしてくれる美しい天使達も揃っていました。
やがて、ドミトリーにも転生の順番がまわってきました。永遠に天国にはいられないのです。
「さて、ドミトリーよ」
「はい、神様」
「あらゆる生き物が輪廻転生する。転生する時に、他の生き物にも生まれ変われる。そなたは徳が高いから人間にも生まれ変われよう」
「そんなに徳が高いですか?」
「うむ。だから希望を聞くゆとりがあるというものじゃ。大胆に人か、奥ゆかしくまた猿か、あるいは男か、女か、どういうタイプが良いか選ぶのじゃ」
「では人間と猿以外でお願いいたします」
「なんと。人間になりたくないと申すか」
「はい、人間になってもどうせ猿芝居ばかりです。動物園で好きでもない上司に媚びへつらう部下という猿芝居はたくさん見ましたから」
「ではドミトリーは何を望むのか?」
「恋というものを知りたいと思います。だから、恋に生まれ変わりとうございます」
「恋? そんな生き物があったかな?」
「ほら、人間が飼っていて池で泳いでいる……」
「それは鯉だ!」
やはり、猿の知恵は猿知恵だと思う神様でした。
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)