あるところに小国がありました。しかし、重要な商業ルートとなる海峡に面していたので、交易で栄えました。しかし、その豊かさを妬む者もいて、北の大国が小国を狙っていました。
若い皇太子殿下は、率先して北の大国から小国を守るべく、海峡に砲塔を建設しました。
人々は、それを殿下の砲塔と呼び、偉業を称えました。
北の大国は、砲塔の威力に恐れをなして、攻めてきませんでした。
結局、敵は現れず、殿下の砲塔が火を噴くことはありませんでした。
その後、世界的な不景気が起こり、小国もその波に飲み込まれました。
小国でも多くの人たちの生活が苦しくなりました。
そんなとき、誰かが気付きました。
あの砲塔を建設するために増税したのが悪いのだと。そもそも敵が攻めてこないのに、あれほど大きな砲塔は必要ないと考えたのです。
もちろん、砲塔があるから北の大国は侵攻を断念したのであり、砲塔は無くても良かったとは言えません。しかし、抑止力としての砲塔の存在意義は直接的には分かりにくく、怨嗟の的になりました。
ここで困ったのは殿下です。
自分の発案で建設したのに、邪魔者扱いされては困ります。
結局、本物の侵攻さえあれば邪魔者ではないという証明になると考えた殿下は、北の大国を挑発して侵攻をわざわざ招きました。
殿下の砲塔は大活躍し、北の大国の大軍を次々に撃破しました。
そして、殿下は得意満面に部下に質問しました。
「見たまえ。大活躍だ。これで砲塔への怨嗟は無くなっただろう」
「とんでもない。街は砲塔への怨嗟で満ちあふれていますよ」
「なぜだ。無用の長物ではないことは証明されただろう」
「だって、あれだけ撃ちまくればその分だけ金が掛かります。そのコストは更なる増税でまかなってますよ。税金を搾り取られてみんな砲塔を恨んでますよ」
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)