今回は特にネタバレありと最初に示しておきます。
「というわけで、なぜクレヨンしんちゃんの映画なのか」
「うん。まずバックグラウンドとして、過去のしんちゃんの映画はかなりテレビで見ているが、凄いことは知っていた」
「なるほど。だから見にいこうと思った?」
「いいや。実は、しんちゃんとコナンとポケモンの映画はかなり前から予告編が上映されていたが、あまり見る気はなかった」
「では、なぜ心変わりをしたの?」
「冬の頃の予告編と、4月ぐらいからの予告編ではまるで中身が違ったからだ」
「中身が違う?」
「冬の頃の予告編は面白くなかった。というか、あのときの予告編のシーンもシーケンスも全く使われていない」
「えっ?」
「しんちゃん映画恒例の、実際には使われていないシーンを描く予告編だったわけだ」
「まさか」
「ええっ。あのシーンは無いの? 無いまま終わってしまうの? またしても、アレをやるの? と思えるところが常連向けのメッセージだろうと思うよ」
「それで面白かったの?」
「うん」
「どう面白かったの?」
「やっと分かってきた。こういう映画は、テレビを見ているファン向けという側面と、いつも劇場に通ってる人がぶらっと入って映画として楽しめるという2つの側面がある」
「うん」
「だから、2つの極の間で、どのようなバランスも取れる」
「つまりどういうこと?」
「普通にやったら破綻するということだ」
「じゃあ、この映画は破綻していたわけ?」
「いいや。この映画は、舞台を未来に設定し、タミコの物語として構成することで、映画側に降ることで問題を解決しているように思える。あくまでの、テレビの常連向けのネタは本筋と関係ない小ネタにのみ出てくる」
「では、あくまで映画側の作品で、テレビが好きな人向けではない?」
「とも言い切れない。なぜなら、その小ネタの1つ1つが良くできているからだ」
「たとえば?」
「未来のひまわりが出てくるのだが、可愛く成長したひまわりの姿も見てみたいよな、という願望を叶えてくれる」
映画としての人数問題 §
「実は凄くなるほどと思ったのは、子供達がタイムマシンで未来の自分に出会うという話は、人数問題を発生させることになる」
「人数問題?」
「5人でも多いのに、5人が未来に行くと10人になってしまうのだ」
「そうか。子供の時分と未来の自分」
「更に、ひろし、みさえ、他の誰かが入ってくればもっと増える。未来に行くと2倍に増える」
「それで?」
「未来のしんのすけは固まって動けない。5人以外は未来に行かない。クラスマックスになると、本筋と関係ないキャラはみんなロボに乗り込んで、十把一絡げ扱いだ。そして、クライマックスで意味がある人物はもはやロボに乗らない」
「ロボの扱いが酷くないか?」
「映画の世界で、人が扱って暴力を振るうロボは、基本的に悪役のものなんだよ。だから、この映画のロボは、まず悪役が使うものだ。正義のロボも格好良くない。というか、そもそもアクション仮面も悪徳業者のCMキャラクターであり、正義のヒーローではない」
「ってことは?」
「しんちゃんは生身の体で駆け回って、悪のロボと戦うわけだ。いいねえ、すばらしいねえ」
「えっ? それでいいの?」
「うん。正義というのは詐欺の代名詞だし、人間が暴力装置の象徴的な存在を打倒する話は感情移入できる」
「主人公が正義のロボに乗って戦う話は?」
「感情移入できない。あほらしいよ。それより正義と称する茶番を暴く話の方がずっと面白いだろ」
「それはいいとして、もうちょっとまとめてくれよ」
「うん。この映画には2つの軸があると思う。1つめは、タミコの戦いだ。もう1つは、思い通りにならない未来に挫折するが、その挫折から何が出来るのかという話だ」
「というと?」
「世の中は思い通りにならない。そういう挫折の未来を描いているという点で優れているが、その先も描いているという点でもっと優れている」
「なるほど」
「現実はリアルおままごとより悲惨だ子供ネネちゃんに言う大人ネネちゃんのすごみとかね。かなり凄かったよ」
「リアルおままごとでも、かなり悲惨なことをやってるよね」
「でも、現実はそれ以上ということだ」
「それから?」
「後はね。やはり時間旅行中に不思議な背景になって、素敵な未来都市に行くわけではないのが良かったね。いきなり東京が壊滅して、春日部が海に沿っているという凄い描写を見せてくれるし」
「他には?」
「光り輝く未来都市の隣にスラムだ。露天が並び食い物や真空管のような部品を売っていたりする」
「それって」
「まさに終戦直後のイメージだろうね」
「なかなか凄いね」
「後は、やはり敵の先方である花嫁軍団かな。要するにプロを雇う金をケチるから、ああいう連中が出てくるわけだ」
「そうか、結婚できれば報酬抜きでも動いてくれるからね」
「そういう意味で、良くできていると思うよ。そうそう。あと未来のひまわりのコスチュームが森雪風のカラーリングなのだ」
「やはり、そこかい」