あるところに、少年がいました。少年は狼が来たと叫びたいのをガマンしていました。注目を浴びたかったのは事実ですが、少年はあくまで狼少年ではなく、ヒーローになりたかったのです。
その願いは叶えられました。
あるとき、少年が学校から帰るときに奇怪な宇宙人に遭遇しました。
少年は思わず「インベーダーだ!」と叫んで人を呼びました。インベーダーは慌てて逃げ出しましたが、用途不明の機械は放り出していきました。あとでそれは光線銃の一種らしいと分かりました。
少年は、そのまま少年地球防衛隊を組織すると、人海戦術で怪しい場所を探し出し、次々とインベーダーの陰謀を暴いていきました。
「地球は僕らの力で守られている」
少年は得意の絶頂でした。
組織は海外にも広がり、全世界の支部ができました。そして、少年が最初に遭遇した事件を元にマニュアルが作られ、次々とインベーダーの支部は暴き出されていきました。
やがて、インベーダーの葉巻型母船UFOが地球から離れていくのが観測されたとき、人々は歓喜しました。
ついに地球人はインベーダーに勝ったのです。その立役者は少年に他なりませんでした。
少年は祝勝会を開きました。
少年の配下の幹部達が集まって、祝杯を挙げました。
そして、幹部の代表が言いました。
「あなたには感謝しなければなりません」
「いやいや。みんなが頑張ったからさ」
「いえそういう意味ではありません」
「え?」
「あなたのおかげで我々の勝利が見えてきました」
「いや、母船はもう行ってしまったし、もう勝利は確定だよ」
「あれは船体の定期チェックに戻っただけで別に撤退ではありません」
「ええっ? なんでそんなことが言えるの?」
「それは、私が一時帰国の命令書にサインしたからです」
「私がって……」
「いやー、全世界を掌握する組織が手に入ったので、地球占領ももうたやすいですよ。しかも、偽装したダミーのアジトを次々と摘発してくれて、本物のアジトから目をそらしてくれて」
「まさか。君は、インベーダー!?」
「はい。そうです。ずっと地球人に偽装してましたけど」
「みんな、これはインベーダーの陰謀だ!」
しかし、その場にいた全員はニコニコ立っているだけでした。
「まさか……」
「もちろん、ここにいる全員が仲間です。あなた以外は……」
少年は口をパクパクさせたが、それ以上のことはできなかった。何かを言う前に意識が遠のいていった。
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)