「さて、ヤマト絡みで邪悪なコレクション論とヤマトという文章を書いたわけだけど」
「うん。ヤマトに救われた話だね」
「何もかも手元に抱え込まなくていいんだ、むしろその方が豊かな経験ができるという話だ」
「そうだね。一期一会型と言ったっけ?」
「問題は、それを分からせてくれた存在は何かということだ」
「それがヤマトなんだろう?」
「確かにヤマトも1つだが、もう1つ重要な要素があることに気づいた」
「というと?」
「図書館だ」
「えっ?」
「子供の頃、SFが読みたいときがあった。しかし、読みたい量に比して、お小遣いはあまりに乏しかった。学校の図書室も量的に十分ではなかった」
「それで?」
「そこで学んだのが図書館の利用というわけだ。永福図書館は非常に遠かったが、自転車で通ったよ。たいてい、最大借り出し可能数の5冊まで借りていたな。一時期は、あの図書館の児童室の常連だったはずだ」
「そうか。図書館から借りるということは、所有できないわけだね」
「うん」
「それが一期一会型の趣味を作る下地になったということだね?」
「それだけじゃないぞ」
「というと?」
「周辺領域にまで手を出せるゆとりができた」
「えっ?」
「ホームズ、ルパン、怪人20面相をかじったことがあるのはなぜだと思う?」
「なぜだい?」
「SFの棚の隣が推理だったからだ」
「えっ? そんな理由なの?」
「ダルタニアン物語全部も近くに置いてあったから読んだな」
「もうSFでも推理でもないぞ」
「うん、ソノラマ文庫もヤマトを始めとして置き始めたが、SFではない小説もけっこうあった。軍艦泥棒とかね。でも読んだぞ」
「そうか。そこまで手を広げられるのは、図書館が原則無料だからだね」
「そうだ。とっておきを厳選して集めようとしたら、こうは行かない」
「なるほど」
「他にも、マンガ少年も置いてあって、火の鳥とかテラへとかミライザーバンはここで読んでいる」
「そこまで行くのか」
「さすがに大人の領域には入れなかったから、児童室だけだが、興味のない領域までぐるっと回ったことが何回もあるし、たぶんドリトル先生もそのときに全部読み切っている」
「ドリトル先生もか」
「ちなみに、大人の世界といえば、当時児童室との境界のあたりにハヤカワの銀背が並んでいたけど、それは指をくわえて見ていた」
「ハヤカワの銀背って?」
「パパとママ。いや、おじいちゃんとおばあちゃんの青春を語るいい思い出なんだろう。まあそういうわけだから、おじいちゃんやおばあちゃんをつかまえて聞いてくれ。まあ知らない可能性の方が高いけどな」
「なるほど。そこがハードルというわけね」
「ちなみに、銀背じゃなくて文庫の話だけどターザンもかなり読んだぞ」
「あーああーと叫ぶと森の動物たちが集まってくるのね」
「小説のターザンはうかつに声を上げると森の動物たちが集まって来て食われるという話だけどな」
「ええっ?」
「昔、ローダンを少し読んでいたのも、図書館がどうやら間違えて1冊だけローダンの途中の巻を1冊だけ入れてしまったのを見たのが契機だ」
「へえ」
「アトランの回想話が載っていた巻だな。アトランティスが出てくる太古の話だ」
「そうか」
「あれはやられたねえ。だって、限りある宇宙艦で必死に戦う話だもの。しかも、艦名が1つ1つある。あれはヤマトに一脈通じる趣味だろうね」
「それでローダンを」
「読んでいたのは途中までだけどね」
「でも読んだ」
「都市名級軽巡洋艦とか、やはり燃える要素がある。艦名の付け方がいい加減だと萎えるんだよね。強そうだから戦国武将の名前を付けるとか。そういうのはイマイチ燃えてこない。ポリシーがあまり明確に見えてこない」
「なるほど」
「人名を艦名にするポリシーは無いわけではない。ビルマルクとかね。ニミッツもそうだ。でも、あまり日本っぽくはない」
「日本だとやはり旧国名?」
「だから、最強戦艦が播磨でもいいわけだ。でも、人名はあまり似合わない気がする」
「話を戻そう」
「うん。だからさ。ある意味でヤマトに救われ、図書館に救われたってことだ。ちなみに、最近図書館に通わない理由は何か分かるかい?」
「なぜだい?」
「魅力がありすぎて危険だからだ」
「はははは」
「それから、1つ重要なポイントに気づいた」
「なんだい?」
「魔法先生ネギま!という作品ね。あれの魅力の1つは、誰も全貌を把握したことのない大図書館島だ」
「そうか。図書館の魅力というものが、通って理解できているならば、それはとても魅力的な設定なんだ」
「うん。だから、図書館探検部は成立するし、それはワクワクする趣味になり得るのだ」
「でも、それが理解されているとはあまり思えないけど?」
「単に、図書館探検部を本が好きという記号として解釈してコレクションしておしまいにする人が多数派だろうが、その解釈は破綻する。その理解だけでは、図書館探検部のメンバーの個性の違いを説明できないからだ」
「なるほど」
「ああそうか。仮面ライダーWもそうなんだね。フィリップが検索する星の本棚も、一種の図書館なんだ」
「というと?」
「だからさ。検索を要するのが図書館なんだよ。自分の蔵書は、全て読んでいるのが基本だから、確かこのあたり……で探せばいいんだ」
「検索か」
「だからさ。子供の頃、図書館通いで学んだのはカードによる検索だ。それで貸し出し中の本まで把握できるし、書棚にない本も把握できる。今ならパソコンによる検索だ。検索してプリントアウトを出して、そのまま窓口に持って行けばすぐ書庫から出してくれる」
「図書館は価値が大きいのだね」
「うん。トランターで必死にみんなで守って戦うわけだ」
「図書館戦争?」
「そんな萌えアニメは知らん。アシモフの話だ。銀河帝国の興亡だ。ファウンデーションだ。テルミナスだ。もううろ覚えだけどな」
「今はターミナスと読むらしいよ」
「創元推理文庫版を読んでいた化石というのがバレバレだな。まあこれは図書館ではなく自分で買って読んだと思うが」
「それで? 話のまとめとしては?」
「やはり図書館を使いこなして自分のバックに持つことは大きな力であると思う。ただし、それはコレクション型になることを否定するのと同義だ。自分ではコレクションしないわけだからね」
「うん、やはりそこか」
「やはりそこだ。コレクションは図書館にいるプロの書誌に任せ、それを利用することに徹した方が良いということだ」
「でも、図書館のやり方に批判もあるようだけど?」
「貴重な本を捨ててしまうような行為への批判は確かにあるが、それはそれでまた別の問題だ」
「利用者の問題ではなく、図書館そのものの問題ということね」
「うん。問題があることを否定するものではないが、それを含めても図書館はいいところだよ」