「まあ、今回の夏はワンフェスに行けなかったわけだが、そこにはいろいろな経緯と紆余曲折があるのだ」
「というと?」
「実は模型の卒業という計画がある」
「なぜ卒業するんだい?」
「結局作っている暇がない割に作っていないキットは場所を食う。もう十分な量の未組み立てキットの山があるんだ」
「そうか」
「しかも、もう作れないキットもある。手ごろなデカールだからと他のキットを組む際にデカールを強奪されてしまうと、もう作りようがない。デカールじゃなくて小物パーツということもあるけどね」
「なるほど。作れないのに場所を食う訳か」
「もちろん箱のリロケーションというのはやっていて、ジャンクパーツを集約しておく箱とかもあるけど限度がある」
「そうだね」
「実際、箱と入っている中身が違うことはもう珍しくもない」
「それは他人が探せないね」
「しかも、意欲は落ちてる。なんというか、自分の作風を確立してしまった時点で、作ることへの意欲が大幅に減退した感じだ」
「なるほど」
「というわけで、もう模型は卒業してもいいじゃないか、という気がしていた」
「それで、ワンフェスも卒業しようと思ったの?」
「それはまたちょっと別で、実はワンフェスがビッグサイトだったら今回の件とはあまり重ならなかった」
「そうか。ワンフェスで見物しているだけなら、場所は食わないわけだしね」
「でもさ。ワンフェスは今は幕張メッセなんだ。当分そうらしい」
「幕張だと何か問題があるのかい?」
「ある。遠すぎるんだ。東京西部から行くと遠すぎる。もちろん仕事なら問題なく行ける距離だ。しかし、片道実質2時間で、交通費は安い経路でも700円台に達する。あくまで片道でね。そしてワンフェスそのものの入場料が2000円だ。ついでに、これだけ時間が掛かったら昼食は外食必須でそのコストも加算される」
「そうか。金と時間が掛かりすぎるのか」
「うん。だから、このくそ忙しい時期にそれだけの金と時間を割く価値がどこまであるのか、と考えると否定的な方向に傾かざるを得ない。つまりワンフェス卒業だ」
「だから、ワンフェスに行かなかったわけだね?」
「いいや」
「違うの?」
「違うのだ。実はヤマト復活編BDの映像特典の熱さにやられて、もうちょっとこの国の行く末を見ていたくなったのだ。ワンフェスで何かあるかもしれないしね。実際、前回はハイパーウェポン2009のサイン本が手に入ったわけだし。一般ディーラーのヤマト復活編に関する活動も、時期的にこれからが本番だろ。その動向も見たいしね」
「じゃあ、行く気になったの?」
「本当ならダメなんだよ。だけど、熱さにのぼせて無理をして行く気になったのだ。そういう前提でいろいろ準備を始めてしまった」
「なのに、なぜ行かなかったの?」
「身体のトラブルだ。今は歩くのもきつい。幕張どころか、近所のコンビニまで行くことすら難しい状態だ」
「あらら。ご愁傷様」
「更に、前日に買ったモデグラのZZに関するあさのまさひこさんの文書が、ほとんどコミュニケーション不可能なほどこちらの認識と乖離していたしね」
「じゃあ、どうなの?」
「もしかしたら、本気で、木星を吹っ飛ばすような気概でさよならモデラー計画を始める必要があるのかもしれない」
「さよならモデラー?」
「さよならジュピターじゃないぞ。ハセガワの萌え戦闘機にも興味がない、というかそういう世界と同居する気もないしね。もうオレのターンは回ってこないような気がした」
「オレのターンねえ」
「ただ、1つだけ問題がある」
「というと?」
「ハセガワが何をとち狂ったのか、ガンビアベイを1/350で模型化してくれる」
「護衛空母だね」
「こちらは、日本に昂ぶる気は全く無い。欲しい軍艦はアメリカの護衛空母だけって言い切っていたからなあ。もちろん、そんなマイナーな種類を模型にして売れるわけがないので、絶対に不可能という前提で吠えてただけなのよ」
「そうか」
「でもさ。ハセガワさんが本当に作ってるわけだよ」
「タミヤのボーグはどうなのよ」
「あれはもともタミヤの製品じゃないから。金型買っただけだから。やはり品質で劣るし、ちょっと工作が困難だったので放置してしまった」
「そうか。ハセガワ純正の製品なら行けるかもしれないと」
「しかも、1/350だ。1/700と違ってでかいから、細かい作業も作れる可能性もアップする」
「ディティールアップするの?」
「いやいや。基本工作の問題だよ」
「けっこう難儀だね」
「難儀なんだよ」
「それで結論はどうなってるの?」
「ともかく、ガンビアベイを1隻作って、これで模型もワンフェスもモデグラも全部卒業ってことでいいかな、と思い始めている」
「モデグラも?」
「もともと、モデグラは宮崎駿がたまにでてくるから買ってたのだ」
「風立ちぬが最後でもう出てこないだろうと思うの?」
「いや出てきてくれると嬉しいが、出てきた時だけ買えばいい」
「卒業でも、ガンビアベイは作るの?」
「護衛空母の良いキットは欲しいと書いてしまったからな。その責任は取らないと」
「責任の問題?」
「それだけじゃないな」
「というと?」
「模型っていうのは、亡き父に対するコンプレックスがあって、だから作らなくてはならないところがあった。父は上手かったからね」
「じゃあ、ガンビアベイもコンプレックスで?」
「いや違う。これはオレのターンだ」
「え?」
「だからさ。日本軍機と日本艦ならルーツを父に求められるし、ソフトスキンなら大塚さんの影響とかさ。ルーツを求められるんだけど、実はガンビアベイはそうじゃない。これはオレのターンなんだ」
「ええ!?」
「確かに、ソノラマ航空戦史シリーズの文庫本で空母ガンビアベイってのを読んで、興味を持ったということもあるのだけど、護衛空母全般に向ける嗜好はオレのターンだ。で、搭載機のワイルドキャット趣味もここに包含される」
「そうか。そこに行く訳か」
「まあ、先のことはまだすべて未定だからどうなるか分からないけどね」
「でも金が掛かりそうだね」
「手間もな」
「それもあるか」
「工具を再整備したり塗料を再整備したり、ディティールアップパーツ買ったり、金と手間が掛かるから、ワンフェスにも行かずモデグラも買わず、その時間と金をガンビアベイに注ぎ込んで終わるかな」
「卒業なのに楽しそうだね」
「ああ、楽しいさ。だってハセガワの護衛空母だぜ。そんなものが作れるなんて、1年前ならただの夢想だ。どうせ有名な人気軍艦だけ模型にするだけさ、と思うのが関の山。結局、模型人生の全てを注ぎ込むに値するチョイスだ」
「じゃあ、泉に落として、あたなが落としたのはこの強くて大きな大和ですか、渋くて国民から愛された長門ですか、と質問されたら?」
「どっちも要りません。くれくれガンビアベイくれ。それだけでいいです」
オマケ §
「でもさ。実はちょっと意外なこともある」
「それはなんだい?」
「検索すると、意外とリアクションがいいんだよね」
「は?」
「だからさ。みんな欲しいのは大和とか長門だと思ったらさ。意外とガンビアベイに好意的な紹介も多い」
「え、そうなの?」
「SWEETのワイルドキャットだってさ。要するFM-2で護衛空母の搭載機だし」
「意外と日本にもそういう嗜好の人がいるってことかね?」
「さあ。どこまで当てにして良いのか分からないけど、もしかしたら違うニーズを発掘しているのかもしれない」
「日本の主要艦に興奮している層とは別ってことだね」
「うんそうだ。同じ人気艦ばかり何回もリニューアルしてても、新しい客層は掴めないしね」
「ガンビアベイ、ヒットしてくれるといいね」
「もう萌え戦闘機なんて製品化しなくていいぐらい売れるといいと思うよ。まあ夢想のレベルだけどね」
オマケ2 §
「どうでもいいけどさ」
「なに?」
「前はD1計画、今度はさよならモデラー計画って、どこまで日本特撮映画に毒されてますかね」
「ははは。じゃ、そのうちにテンコードで通信してやろうか」
「なにそれ。本当にやったら電波法違反の10-4 10-10?」
「その通りだ。来来!キョンシーズもといテンテン」
オマケIII §
「あ、でもある程度模型の山を解消して終わるってのもいいかな」
「そんな夢みたいなことを言ってないで」
「既にガンビアベイが出るって時点で夢の世界だしな」
「しかし、そうそう上手く行くかね」
「あー。確かになあ。塗りの方法論を確立したと言ってもガンビアベイでも上手く行くか分からない。1/350の艦船模型では試したがことがないからな。上手く行くとしても最善であるかは分からない。上手く塗れてもそれが似合うかは別問題だ。それにフィギュアの塗り方はもうちょっと違う方法を確立した方が良いかもしれない」
「既に確立したやり方を壊して作り直すことも要求されるかもね」