私は荒れていた。
いや、10代の少女など、それが普通だったのかもしれない。
親兄弟もいなかったら、それを止める家族もいなかった。
チンピラをぶちのめした翌日に学校に呼び出しを食らい、停学を命じられた。それが学校の判断だった。
唯一の味方は担任の先生だった。
冴えない男の先生は、私に非はないといい、残念そうな顔をした。
「いえ、分かっています」私は堪えた。「幸せな娘なら戦わない筈だと思います」
「でも、強さは君の君らしい美徳だ」と先生は言った。「どうだい、これに応募してみては」
先生が出したチラシには、美少女戦隊ガールズ5欠員募集と書いてあった。
「なんですか? 見世物ですか?」
「いや、正義の味方だ」
「マジで?」
「そうか。君はまだ知らないのだね」
「何を?」
「ジャッカーという悪の組織が暗躍している。政府は、表だって対抗するとパニックになるから、秘匿性の高い対抗チームを組織したわけだ」
「まさか」
「今となっては、国民の3割は知っていると言われている」
結局私は半信半疑で面接に出た。唯一の味方である担任の勧めだったからだ。
そこで行われたのは実戦さながらの格闘試験だった。本当に強い教官と先輩にあっさりとひねられた。だが、意外にもそれで合格した。時間いっぱいまで諦めなかったガッツが認められたらしい。
「今日から君はガッツウィングだ」
私は真っ赤な強化スーツを受け取った。
ガールズ5のメンバーになった私は毎日を戦いに捧げた。それが平和のためだった。仲間の境遇も私とほとんど同じだったから、負い目は感じなかった。ガールズ5に入らなければ、きっと人生を踏み外していただろう。
半年ぐらいで、電撃隊を自称するジャッカーの怪人軍団はほぼ壊滅し、ジャッカーの幹部が自ら出てくるケースが増えた。
中でも強敵はプロフェッサーと呼ばれる死神だった。次々と新兵器を発明する才能は悪魔的だった。
プロフェッサーは、ジャッカーバルカンという新兵器を実験するために都心に出てきたので、それを察知したガールズ5と激闘になった。やっと発射を阻止してカウントを見ると、なんと2だった。ぎりぎりでガールズ5の勝利だったので、肝を冷やした。プロフェッサーは左腕を負傷して、ジャッカーバルカンを諦めて退却した。
その後で私は何食わぬ顔で登校した。ガールズ5のメンバーであることは秘匿されているからだ。
しかし、驚いたことに担任も左腕を怪我していた。
「階段で転んじゃってさ。ははは」
夜、イカを肴にビールを飲みながら担任は笑った。
だが、私には分かってしまった。担任がプロフェッサーで間違いない。
私は決定的な証拠を求めてガールズ5の研究部門を訪問した。そこで、個人識別用の液体の試作品をもらった。目には見えないが、相手の体に付着させておくと、特殊な光線で光るのだ。
私は、うっかり転んだふりをして液体を担任に掛けた。
そして、ついにプロフェッサーとの決戦を迎えた。
「攻撃は待ってください」と私はリーダーに願った。
「どうして?」
「あれは、私の担任の先生なんです」
「どういうこと?」
「分かりません。でも証明はできます」
「どうやって?」
「あらかじめ、先生に特殊な液体を掛けておきました。このライトを当てると光るはずです」
私は特殊ライトをプロフェッサーに当てた。
液体を掛けた部分が光った。
「なるほどね」
「そうか、正体がばれてしまったのか」プロフェッサーもがっくりと膝を突いた。
「教えてください。なぜですか。なぜジャッカーなんていう悪の組織に寝返ったんですか?」
「寝返ったわけではない」
「え?」
「僕らは、みな、危うい子供を抱えて困っていたんだ。そこで、有り余る若い力を健全に発揮できる場を用意したんだ」
「それがジャッカー?」
「いや、ガールズ5さ」
「まさか」
「でも、そうそう都合良くガールズ5が戦う相手はいなかった。本当の巨悪は君たちで戦えるような相手ではないしね。それでは意味がないので、僕らが自分で敵になったというわけさ」
「まさか、ジャッカーの他の幹部も」
「みんな、君たちの大事な人の変装さ」
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)