「というわけで、本屋のパソコン雑誌コーナーのウォッチングの続きだ」
「まだ続いてるの?」
「けっこう興味深いぞ」
「それで?」
「近所のさる本屋では以下の2つの状況が進行中だ」
「年賀状コーナーも同じようなものと考えればやや大きくなっているが、違うと思えば縮小傾向だ」
「なやましいね」
「アルテイシアぐらい悩ましいぞ」
「それ意味不明だから先に進めてよ」
「レギュラーのパソコン雑誌コーナーは縮小傾向だが、iPhone/iPadバブルがもう過去のものという感じだね。大きな本屋だと違うのかも知れないけど」
「うん」
「でもさ。WinとかPCとかいう言葉の入った雑誌の他に、Linuxって入った雑誌があってそれが特異的に思えた」
「少数派のLinuxはコーナー縮小で最初に弾き出されるかと思ったけど、違うのね」
「そこは考え方を変える必要があるな。世間の一般論としてLinuxの客は少数派から未だに脱していないが、本屋にとってはいい客なのかもしれない」
「どういう意味?」
「この状況を見て、はたと手を打った」
「何か分かったの?」
「うん」
「教えてよ」
「その前に質問しよう。LinuxあるいはオープンソースあるいはOSSの特徴って何か分かる改?」
「思想?」
「それは横に置こう。純粋にソフトを見よう」
「ソース公開ってことかな?」
「ほとんどの人はソースを読まないそうだから、それは特徴とは言えないな」
「読まないならあってもなくても同じか」
「そうそう。実際にソースを書き換えて自前のバージョンを作る人も滅多にいないしね」
「バージョンアップに差分で追従するのも大変だものね」
「ということは、何が特徴だろう?」
「無料で手に入るってこと?」
「OSSじゃないのにタダで手に入るソフトは珍しくないぞ。あるいはOSSでも金を取るケースが珍しくないぞ。ソースはタダでもディストビューションは金を取るケースがあるんだ」
「うーん」
「じゃあ説明しよう」
「うん」
「LinuxあるいはオープンソースあるいはOSSの特徴はいくつもあるが、そらの大半は関係ないので省こう」
「雑誌とはあまり関係ない話だってことね」
「うんそうだ」
「なら、いったい何が特徴なんだい?」
「口伝の文化さ」
「ええっ?」
「ドキュメントが驚くほど不足していて、結局詳しい人に訊くしかないんだ」
「えええっ?」
「ソース公開しているから読めば分かるでしょ?という思想かも知れないが、もちろん何倍も時間を食うので読んでられない」
「なるほど。だから口伝の文化になると」
「凄いハッカーがウィザードと呼ばれて尊敬されるのも、ある意味で口伝の文化の必然的な帰結だろう。答えを知っている人は特別扱いされねばならないのだ。嫌われて教えてくれなくなったら困る」
「ほうほう。なるほど」
「……が、それはここでの本題ではないので横に置く」
「うん」
「では、そこで最初の話題に戻ろう」
「最初って何だっけ?」
「では口伝の文化という特徴は何を引き起こすだろうか」
「きっと常に情報不足でみんな喘いでいるね。いつも知りたいことを知っている人が身近にいるとは限らないから」
「じゃあ、どうしたらいいだろう?」
「ネットで質問する」
「対処療法としてはそうだろうね。でもそれだけでいいの?」
「そうだな。普段から情報集めは欠かさないのが基本か。予防線は打った方がいいものね」
「ではどうやって情報を集めるんだ?」
「ネットを検索して……」
「それもあるが、ネットにある情報は断片的で体系的な理解には遠い」
「ならば、本屋に行って……」
「そうだ」
「え?」
「だから、OSSは口伝の文化であるがゆえに本屋への依存度が高いと考えられる」
「えーっ?」
「ということは、Windowsユーザーと比較して、OSSユーザーの本屋依存度は圧倒的に高いと考えられる。つまり本屋にはいい客だ」
「だからLinux雑誌は少ないけど本屋から無くならないのが」
「ま、本当かどうかは知らないけどね」
「知らないのか!」
「そりゃそうだ。単なる思いつきだからね」
「ネットに書いてあることを信じてはいけないってことだね」
「その通りだ」