「SPACE BATTLESHIP ヤマトのサントラを何度か語っているわけだが」
「うん」
「その際、注意すべきことは、おいらは根っからのリズム人間であるということだ」
「それが何を意味するの?」
「どんなに素晴らしいメロディーであろうと、リズムがぬるければあくびする人種だということだ」
「それが何を意味するの?」
「世間の標準とは違うということだ。しばしば、その差は致命的なコミュニケーションの問題を生む」
「たとえば?」
「『ロックっていいよね』という言い方に相づちは打てない。しばしばロックとは『ぬるくて退屈なリズム』の代名詞になるからだ。別にそうじゃない事例もいっぱいあるんだけどね。でもロックだからいい、という気分にはなれない」
「ははは。それでそういう観点からもSPACE BATTLESHIP ヤマトのサントラは合格を出したわけだね」
「そうだ。そして、そういう観点から見れば、宮川泰に良いという評価を出したというよりも、佐藤直紀に良いという評価を下したことになる」
「なるほど。他人のメロディーを使ってもリズムは別ということか」
「問題は、そんな風に音楽を評価するおいらの耳を誰が作ったのかということだ」
「誰なの?」
「順番に過去を追いかけてみよう。先に結末を予告しておくと、みんな知ってる意外な人物に突き当たるぞ」
現在の趣味 §
「現在の音楽趣味はダンス系の踊れる音楽に近いところにある、といえるのかな」
「ハウスとか言ってたよね」
「ハウス、あるいはトランスなんかも近いかな。ユーロビートじゃない」
「どうしてハウスは良くてユーロビートはダメなの?」
「ユーロビートはスピード感はあるが、音が軽く、リズムが比較的単調すぎるのだ」
「結局リズムか」
「そうさ。リズムだ。だから、EuroGrooveとかそういう音楽CDシリーズをやっていた小室サウンドとはそれほど相性が良いわけではない。もっとも、小室プロデュースの音楽にはいいものもけっこうあるけどね」
「たとえば?」
「別に小室のおっかけはやってないから、たまたま聞いたものしか分からないけどね」
ナースエンジェルりりかSOSオープニングテーマ
「恋をするたびに傷つきやすく…」第1話から第26話(歌:翠玲(作詞:秋元康 作曲:小室哲哉 編曲:小室哲哉&久保こーじ))
「り、りりかSOSって」
「でなければ、2001年版のサイボーグ009」
オープニングテーマ:「What's the justice?」(第2話-第47話)
作詞:KEIKO & MARC 作曲・編曲:Tetsuya Komuro 歌:globe
「globeもいい仕事をしたと思う。サイバー感のあるいい音楽だ。サイボーグ009に相応しい。古典的なぬるい世界じゃないのがいい」
「分かった分かった。じゃあ、そこが過去に遡航する出発点だ」
「うん」
ハウスへの道 §
「じゃあ、そういう世界に目を向けた切っ掛けはなんだい?」
「ずばりこのCDだ」
ドラゴンボールZ ヒット曲集 8 1/2スペシャル
「ドラゴンボールZって……」
「ドラゴンボールZ ヒット曲集を単なるキャラソン集と思うと痛い目を見るぜ」
「そうなの?」
「そうじゃなきゃ、こんなに枚数が出るか」
「ええっ?」
「Vol.12から13あたりはもう完全にダンスサウンドの世界に行ってしまった感じだな。13で歌の間に入る短い音楽はもうデステクノ?って感じみたいだ。よくわからんけどな」
「そんなに」
「でもさ。原点を模索すると、どうもこのCDは卵をかえしただけで、もともと卵は用意されていたような気がする」
「どういう意味?」
「ダンスサウンドという意味では、1970年代まで遡ることができ、いわゆるディスコサウンドというのがあるんだ。ヤマト劇場版第1作と同じ頃に、サタデー・ナイト・フィーバーというヒット映画があったりする」
「それで?」
「CD化されていないこういうLPもあるわけだ」
不滅の宇宙戦艦ヤマト ディスコアレンジ
「つまり、ダンスサウンドの卵は結局ヤマトってことだね」
「うん。でも、それはまだゴールではない。ここで知りたいのはダンスサウンド趣味の原点ではない。リズム人間としての原点だ」
「そうか」
「ああ、そうそう。だいぶ本題と関係無い話ははしょってるからな。これを全部だと思わないでくれよ」
「たとえばどんな話?」
「芸能山白組とケチャとかね」
「白組のケチャップ?」
「なんか違う」
「良く分からないから先に進んで」
リズムの原点 §
「リズムという意味で思い出深いのは、以下のCDだ」
MEGAZONE23 PART II IMAGE ALBUM THE LAST TARGET
「これはどういうものなんだい?」
「本編と関係無くぶっとんだハードな音楽をやってる」
「なぜハード?」
「しらんけど。おそらくPART Iでヒロインがハードロックカフェで働いているという設定だからだろう」
「誰がそんな音楽を?」
「エヴァンゲリオンで有名な鷺巣詩郎だよ」
「それで?」
「PART Iにも同じようにイメージアルバムがあってそれが良かったので買ったが、1曲だけどうしてもリズムが取れなくて悔しいのがあった。苦労してそれを聞きこなしてやっと乗り越えた。ちょっとミスリードしやすいリズムのトリックがあったのだ。今ならもう常識的に乗り越えられるので、今聞いてもどの曲がそうだったのかワカランぐらいだ」
「そうなの?」
「世の中には、フェイクのリズムだとか、あえてリズムを刻まない空白のリズムを挟んだりするトリックというのがあるのだ。あるいは2重のリズムでリズムを掴みにくくするとかね。そういう障害を乗り越えて実際のリズムを掴んでいくのがミュージシャンと聴き手の間のある意味でバトルだ。そのための第1歩になった記念すべきCDだ」
「なるほど」
LP時代 §
「最初にCDプレイヤーを買ったとき、同時に買ったCDが3枚ある。メガゾーン23PART Iのイメージアルムとジャムトリップ ルパン三世とNovelaのブレイン・オブ・バランスだったと思う。それともZガンダムのサントラ2枚目(今の3枚目)だったかな」
「Novela?」
「後で説明する。別に重要な伏線というわけでもないので、そういうロックバンドがいたということだけ把握してくれ」
「アニメ特撮ではなく純粋にロックなんだ」
「従って、そこから歴史を更に遡るともうCDの無い時代に入る」
「LPの時代だね」
「当時自分で金を出して買ったLPを思い出すと、思い出せるのは3枚ぐらいだな」
「どんなLP?」
- ビーハイブ デビュー
- 最終戦争伝説Part2 (Novela)
- ネコじゃないモン (谷山浩子)
「ちょっとまて。頭が混乱してきた。なんだ、このビーハイブって。あと最終戦争伝説とかネコじゃないモン!とか、アニメになってないだろ?」
「話はなんら難しくない。おいらは昔、愛してナイトというアニメが好きだったのだ。特に、ライブ中に橋蔵ちゃんを背負ってライブハウスに『加藤さん!』と叫びながら乱入する八重子の父がね。ジュリアーノ、豚玉焼いてやろうか?」
「ぶみぃ。それで?」
「それに登場する主役バンドがビーハイブなのだ。そういうバンドがあるという設定で収録されたLPがある」
「なるほど」
「で、それとは別においらは山田ミネコファンであったからコミックのイメージアルバムを買ったわけだ」
「それで?」
「でもあとで分かって開いた口がふさがらなかった」
「なぜ?」
「ビーハイブのモデルがNovelaで(でもLPでは歌っていない)、そのNovelaが山田ミネコのコミックのイメージアルバムを作っていたからだ」
「わははは」
「ただし、Novelaといっても時期によってスタッフの変動があるからどれでも同じというわけではない。方向性も変動しているしね」
「それで?」
「このNovelaというのもただ者ではない。ロック・ファンタジーとも言われるが、あくびのでる退屈なロックとは一線を画している。それが、詩心のある山田ミネコの壮絶な詞に音楽を付けて歌うのだが凄みがある(ボーカルのない曲も凄いのだが)。特に2枚目のPart2は凄いぞ」
「どんな風に?」
「寂しい恐ろしい夢をみそうで眠るのは怖いが、目覚めているのはなお怖いと歌う」
「そうか」
「でも、2番になると、夢見ているのはなお怖いと歌う」
「ははは」
「構造がシンメトリーになっていて、寝ても起きてもどちらにしても怖いのだ」
「そりゃ怖い」
「素敵なおうちの歌が続いて、夢から覚めると旅の空でもう素敵なおうちはもうない歌とかね。しかも少女視点だ」
「怖いなあ」
「谷山浩子の話は割愛するが、ともかく半端じゃないそういう音楽世界にもともと浸っていたことに気付いた」
「そうか」
結末 §
「そろそろ終点が近いかな?」
「その通りだ。超過激なリズムに触れて、こんな人間が出来てしまった原点探しはもうそろそろ終点だ」
「ずばりそれはどこなんだい?」
「ここだ」
「へ?」
「もっと説明すると。この中の決戦(挑戦=出撃=勝利)だ」
「そうなの?」
「今になってやっと分かったよ。リズムの超変態アクロバットの極地とも言える曲だ」
「そうか。そういえば、変な音楽という感想はしばしば聞いたね」
「絵には合っていたから文句は出なかったようだが、音楽単体ではまさに超絶技巧リズムのデパートのような世界だ。宇宙を立体的に跳ね回るようなリズムだ」
「やっと分かったぞ」
「何がだい?」
「この文章は最後にヤマトが来るから話として成立するんだ」
「そうさ。エヴァンゲリオンなら成立しない」
「そうか」
「だから、夢中で画面を見ながらこの音楽が身体に刷り込まれたから今のおいらがあるわけだな。というわけで、宮川泰という名前に突き当たってこの話は終わる」
「予想通りの答えのはずなのに、なんか凄く意外な気がする」
「二重銀河の向こうまでワープして遠くまで来たと思ったらそこが地球だものな」
「偽物?」
「じゃない。ワープした先に待っていた大地球が実は未来の地球というのはワダチのオチだからだ」
余談 §
「子供の頃、おいらには交響組曲宇宙戦艦ヤマトしかなかった。持っているLPはそれ1枚きりだったからだ」
「そうか」
「だから、交響組曲宇宙戦艦ヤマトが社会から認められる未来を夢想するぐらいしか、できることがなかった」
「実際に意外と承認されてるよね」
「でも、そうするとやることがない」
「ははは」
「今はもういろいろな音楽経験をベースに、相対的に交響組曲宇宙戦艦ヤマトを語れるようになったが、そうやって他の音楽を知れば知るほど交響組曲宇宙戦艦ヤマトの凄みが分かってきたよ」
「そんなに凄い?」
「別に20世紀のナンバーワンとかそこまで言う気はないが、特に優れた音楽をグルーピングするなら候補には入りそうな気がするな」
余談のテーマ §
「ヤマトのスキャットの愛のテーマを分析してみよう、リズム的に」
「ええっ?」
「リズムなので音程の情報をカットする」
「するとどうなる?」
「こうなる」
- ターターータタタターターータタタターターータタタターータターーー
「うん。まあそういう感じかな」
「繰り返しの単位が1小節なのか知らんが、ともかくその単位で切ってみよう」
「すると、この最初に3回繰り返される部分は綺麗に2分割できない。緩急も複数のバリエーションがあって単調ではない。つまり、ここで危うい冒険をしているわけだ。更に最後の部分は、3回も繰り返して印象づけたリズムを全くひっくり返して、別世界を導入している」
「それってどういうこと?」
「スキャットの声だけでもリズムは冒険していて、ぬるくないってことだよ。だから、聴き応えがあるんだよ」
「なるほど」
「あ、ちなみにスキャットは交響組曲よりTV版の方が好き。一緒に入ってるベースラインが好きなんだ」
「ははは、ベースね」
さらば余談・愛してナイト達 §
「後で気がついた」
「なに?」
「愛してナイトのアニメって、ビーハイブのボーカルがささきいさおで(でも声優だけで歌ってない)、お好み焼き屋の頑固ジジイの八重子の父が青野武なんだよ」
「斎藤と真田か」
「道理で相性がいいだけだ。一緒に都市帝国の中枢を破壊しに行ったいいコンビだものね」
「古代をのけ者にしてな」
「ヤマト関係無い話題にどんどん突っ走ると見せかけて最後まで余談もヤマトネタに繋がるのか」
本当の余談 §
「ワダチの話が出たついでに本当にヤマト関係無い話を書くぞ」
「なに?」
「ワダチの大地球は未来の地球だ。それを知っていたから佐渡先生は人類を抹殺して未来の地球に人類がいないこととして整合性を取ろうとしたのかもしれない。しかし、爆破は止められてしまった」
「うん」
「ということは、人類は佐渡が手を下すまでもなく自滅したってことになる」
「凄い滅亡史観だね」
「非常に斜めに構えたものの見方だ」
「そうか。でも本当にヤマト関係無い余談に走ったね」
「そう言われると悔しいので無理矢理ヤマトにつなげる」
「ええっ?」
「ワダチはヤマト直前に書かれている。1973年から1974年だ」
「うん」
「だから、凄くヤマト的な名前が出てくる」
「佐渡酒造先生だね」
「それだけではない。森木深雪という美女まで出てくるが、これはもうほとんど森雪の一歩手前だ」
「わははは」
「しかも、スパイのヒミコの相棒はハーロックという名前だ」
「ヤマトのアニメには登場できなかったハーロックだね」
「しかも、実は真贋を度外視して、遠くに来たつもりでワープした先が未来の地球という設定だけ見ると、ヤマトよ永遠にとワダチでやはりかぶるのだ」
「なははは」
「おいらはヤマト後に単行本で読んだので気付かなかったけど、書かれたのがヤマト前だとするとヤマトへの影響も重要だと思うぞ」
「一方で、カミヨ計画みたいな用語は、更に過去のセクサロイドなんかと繋がってくるね」
「うん。ワダチは通過点でしかない。そこを起点に松本SF世界と松本四畳半世界に入っていける」
更に余談 §
「松本先生が本当にやりたかったのは、ワダチのようにチビでメガネでがに股の主人公の話だったような気もする」
「そうかもね」
「しかし、ワダチにある『ずるくたちまわったエリートがかえって死ぬ』という展開はむしろスペース1999で実現される」
「えっ?」
「コミッショナーが月に乗り込んだまま月を地球の軌道を離れてしまう。途中で、地球に向かうという異星人の宇宙船に遭遇する。そこで不幸な事故があって、1名分の空きができる。そこで、コミッショナーは銃で脅して強引に自分が乗り込む。しかし、人工冬眠に入ったつもりがただの睡眠で、すぐに目覚めてしまう。月から助けに行くこともできないほど距離が離れていて、異星人のクルーは既に人工冬眠中だ。コミッショナーはもう死ぬしかない」
「わははは」
「しかもオチがいい。この話、1名分をコンピュータで公平に人選すると決まっていたが、それが発表される前にコミッショナーは自分が乗るために銃を使って脅した。でも、後からコンピューターが選んだ人物が分かる」
「誰?」
「コミッショナーだ」