「ドラえもんとわさお、どちらを見るか悩んだが、ドラえもんは春休みまで確実にやっていると考えてわさおを選んだ」
「なぜわさおなんだい?」
「理由は以下の2点だ」
- RAILWAYSの錦織良成監督である (RAILWAYSは面白かった上に異色であった)
- 鷹の爪団が宣伝していた
「あまり理由になってないような」
「まあな。映画なんてそんな理由で見に行くものだろう」
「結果が確実に分かっていたら見に行く必要は無いってことだね」
動物映画の問題 §
「動物映画は苦手である」
「そうなの?」
「可愛い動物さんのけなげで泣かせる話なんてうざいだけだ」
「泣かせる話も苦手みたいだな」
「より正確には、結果として泣ける話はいいが、ベタベタに泣かせようという映画は苦手だ」
「たとえば?」
「離ればなれになった飼い主と犬がいて、犬が必死に飼い主のところに戻ってハッピーエンドとかね」
「なるほど」
「で、飼い主のピンチに駆けつけたりすると、まさに不得意なタイプである」
「じゃあ、わさおはどうだったの?」
「犬が飼い主のところに必死に戻ってクマに襲われた飼い主を助けに入るのである」
「じゃあ、まさに苦手なタイプ?」
「とんでもない。まさに逆であった」
「えっ?」
「表面的な筋書きを見るとベタベタなパターンに見えるが、実際に見るとひっくり返るのだ」
「ええっ?」
- 犬は最初に失敗をして人に怪我をさせてしまう
- 犬は東京に連れて行かれるが自力で戻る。しかし、飼い主のことは遠くから見ているだけでけして飼い主の家には戻らない
- 飼い主は成長した犬を見ても、それがその犬だと分からない
- 飼い主はクマから助けてもらっても、なおそれがその犬だと分からない
「ちょっと待てよ。ぜんぜん感動的じゃないだろ」
「この映画は、実はハイブリッド刑事とかGANTZと同じく、間違いを犯した主人公の映画なのだな」
「そうか」
「だから、犬は必死に元の飼い主の近くまで戻るが、けして飼い主のところには戻れない。罪の負い目があるからだ」
「そうか」
「そういう部分の、わさおの渋い演技が光る映画だ」
「なるほど。じゃあ面白かったのだね」
「そうだ」
「でも、それだけで映画として成立するの?」
「問題はそこだ。次はそこに注目する」
薬師丸ひろ子の問題 §
「主演は薬師丸ひろ子である」
「セーラー服と機関銃の?」
「そうだ」
「もう歳だろう」
「もちろんだ。だから、セーラー服の女学生としては出てこない。中年の犬好き既婚女性としてしか出てこない」
「それでいいの?」
「いいのだ。十分にヒロインである」
「え?」
「イカ焼いてる店に入り浸る老人3人組のヒロインだからそれでいいのだ」
「ああそうか。見ている者達の年齢層が高いと、十分に若いわけだ」
「そして、薬師丸ひろ子が演じる犬好き人妻がデカワンコなのだ」
「は?」
「もとい、訂正。探偵ワンコなのだ」
「えっ?」
「つまり、この犬好き人妻が探偵のように推理し、この犬が元飼い主が気に掛けて病まないあの犬であることを察知して、再会させるわけだ」
「さすが、探偵物語の薬師丸ひろ子だね」
「だからさ。この映画は犬のわさおが主役であることは言うまでも無いが、人間の主役は文句なく薬師丸ひろ子なのだ」
「元飼い主を差し置いて?」
「そうだ。エンディングに出てくるのは元飼い主ではなく、こっちなのだ」
弘前の問題 §
「元飼い主の母親はわさおのせいで怪我をして入院している」
「うん」
「そして、弘前の病院で手術を受けるのだ」
「弘前?」
「青森県の都市だな。実は大学時代の友達が弘前出身だったのだ。ちなみに彼の名台詞は『東京は寒い』。暖房が完備した青森より東京の冬は寒かったということだ」
「ははは」
「というわけで、弘前という地名が出てきた瞬間に位置が良く分かった」
「そうか」
「だから、白神山地が出てきて、ねぶたが出てくるわけだ」
「なるほど。極めてご当地ムービーっぽいわけだね」
「ええと、白神山地を抜けて弘前に行くということは……」
「あ、地図見てる」
「舞台は青森の日本海側だな。あの海は日本海だろう。線路はおそらく五能線」
「そうか」
「でも、線路は見えるが列車が走っているカットが無いので、確認は取れないな」
「出てこないの?」
「走る電車と戦うクマは音だけの登場だ」
「そうか」
「問題は五能線は非電化らしいのだが音は電車の音が聞こえた気がすることだが、まあ深くは突っ込むまい」
「わははは」
三位一体の問題 §
「舞台は漁村であるが、海猫が非常に繰り返し描かれ、しかも白神山地が出てくる」
「うん」
「陸海空全制覇映画だ」
「わははは」
「エンディングの歌の歌詞もそれを意識した表現があったから意図的なんだろう」
「犬と鳥とは押井守的だね」
「実は土地の祭りという要素を加えるとイノセント的なのだ」
「なるほど」
「でも、母親の病院でのピンチに後先考えないで子供が突っ走って、お姉ちゃんとみんなが必死に探すのはトトロ的である」
「えっ?」
「最後に、おしまい、と出るのも宮崎アニメ的だしな」
「そうか」
「でも、そこはあまり類似性を突っ込むところでもない気がする」
「むしろ、普遍的なモチーフがかぶっているだけという感じなのかね」
「そうかもしれない。陸を犬、空を鳥で表現するのが1つのスタイルなのかもしれない」
「祭りは?」
「実はRAILWAYSでも祭りが出てくるから、錦織良成監督の持ち味とも考えられる」
トライアスロンの問題 §
「この映画は、トライアスロンで始まりクライマックスでトライアスロンに戻ってくる」
「行って戻る構造に忠実ってことだね」
「でも、戻った後で一波乱あるのが構成の工夫なのだろう」
爺さん3人組の問題 §
「爺さん3人組が面白い。必死に走ってトライアスロンも完走できたし、あれでいいじゃないか」
「ある程度の高い年齢の人が見ると楽しめそうな構成だね」
「そうだろう。RAILWAYSもそうだが、でかい娘のいるパパ世代が見て楽しい映画なんだろうな」
まとめ §
「じゃあ、この映画は面白かったのかい?」
「途中少しだれたところが無いとは言わないが、特に前半は面白かったぞ」
「そうか」
「でもさ。公開直後なのに客が少なかった。いくら早朝の上映とは言え、おいらの他に客が5人は少ない」
「どうしてなのかな」
「実は、動物は映画と相性が良くないのかも知れない」
「えっ?」
「テレビでは動物と子供には勝てないのかもしれないが、映画で犬と言っても、ならば分かっているから見なくてもいいと思われてしまうのかも知れない」
「中年おっさんが電車の運転主になると言えば、分からないと思うから見てくれるわけだね」
「そうだ。そういう意味で題材で損をしている可能性もある」
「面白そうなのにね」
「ああ、面白いぞ。見るべき場所を間違わなければな」