相撲キングは相撲大会で優勝して、キングとなった。
そこで、マスコミやファンが詰めかけてちやほやされた。もちろん、必死に練習して強くなったのだから不当ではない。
だが、相撲キングには1つの問題があった。ヘビースモーカーだったのである。禁煙が励行される相撲競技場で隠れてタバコを吸っていたと相撲キングは糾弾された。
しかし、相撲キングはそれこそ言いがかりだと思った。なぜなら、土俵で吸ったらいけないと思うからこそ、裏で吸っていたのだ。マナーを守ろうという気持ちが強いからこそ裏で吸ったのであって、そういう気持ちのないスモーカーなら場所に関係無く吸っているところだ。
しかし、すっかりマスコミから悪者扱いされた相撲キングは反論もできなかった。
相撲キングが現れると、すぐに罵倒が浴びせかけられたのだ。
「恥さらし」
「相撲キング帰れ」
「ノー・相撲キング!」
「スポーツマンなら禁煙当たり前!」
相撲キングは、追い詰められ、タバコか相撲かを選ぶことを迫られた。
当初、相撲キングは禁煙宣言して、相撲を取ろうとした。しかし、タバコの匂いがする相手とはやりたくないという対戦相手が続々と出てくるに至って、それは無意味になった。彼らはあくまでイメージで相手を見ているだけで、別にタバコの匂いがしたわけではない。だが、世論は冷酷だった。相撲キングが悪いことにされてしまったのだ。
相撲キングは仕方なく、相撲キングの称号を返上して相撲を引退した。
元相撲キングは諦めて喫煙ライフをエンジョイすることにした。元相撲キングはタバコを吹かしながら歓楽街を練り歩いてはナンパして人生を楽しんだ。
ところが、いつものように歩いていると急に声を掛けられた。
「ノー・スモーキング!」
元相撲キングは慌てた。もう相撲キングは返上したのに、なぜまた「ノー・相撲キング!」と言われる必要があるのか。相撲とは関係無くなった以上、文句を言われることもないはずだ。
「オレはもう相撲キングじゃない!」と元相撲キングは叫んだ。
「嘘を仰い。口にくわえてるのはタバコでしょ?」と相手が答えた。
「えっ?」
「街路でのくわえタバコ禁止。区のノー・スモーキング条例が昨日から施行されたの」
「それって」
「パブリックなロードでのスモーキングはノー。おわかり?」
やっと自分の勘違いを理解した元相撲キングの口から、ポロッとタバコが落ちた。
(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)