「当初この映画は見る気では無かった」
「ワンピース好きじゃ無かったの?」
「アニメはもう見なくていいや、と最近は思い始めている。コミックがあればいい」
「トリコは?」
「トリコの第1巻は、なんちゃって漫画読みだった時代に出ていて読んでいるが別に面白いとは思わなかった。2011/4/3放送のルフィと共演するアニメのスペシャルも見ているが別に面白いとは思わなかった」
「じゃあ、モチベーション無いじゃん。なのになぜ見たの?」
「時代の変化を示すマイルストーンになるという予感があったからだ」
「その予感は当たった?」
「当たった。大当たりだ。時代は変わるぞ」
トリコ §
「トリコはつまらなかった?」
「とんでもない。実はストーリーは凄く面白かった」
「なぜだろう?」
「短いながらもきちんと映画になっていたからだろう」
「映画になっている? どういう意味?」
「逃げ足が速いだけの1人の少年がトリコと出会い、猛獣も捕まえられる男になるまでの話だからだ。男になったら話は終わっていい。そういうストーリーだからだ」
「そうか」
「あと、最初に依頼されて猛獣を倒す話と見せ掛けて、実はその深層に別の問題があったのは、先を読ませないことが映画の必須の資質であるとすれば極めていい資質だ」
「なるほど」
「昔、デジモンの最初の映画で、単体の映画としての評価されるように作ったとか何とかどっかで聞いたが、これも同じだ。仮にテレビの企画がぽしゃってコミックが廃刊になっても、これ1本で評価できるように作ってある。この1本の中に1つの世界の始まりから終わりまでが詰まっている」
「じゃあ、君としては満足かい?」
「満腹であった。ごちそうさまでした」
ワンピース §
「ワンピースの映像の話は後で聞くとして、ストーリーはどうだった?」
「これも正しく映画として良いストーリーであった」
「どこがいいの?」
「最初に、ゲストキャラのおっさんと犬が出てくる。次に、鳥が盗んでルフィの帽子がなくなるという事件が起こる。全く無関係に見えて実は関係ある1つの事件だと明らかになる」
「凝ったシナリオだね」
「時間の関係で大事件は起こせない。だからどうしても帽子がなくなるという小事件を描くしかない。でも、その範囲では凄くよくできたシナリオだぞ」
「そうか」
「ちなみに、ブルックがいるが、海軍の雑魚が気軽にルフィを攻めてくるので、スリラーバーグとシャボンディ諸島の中間あたりの幕曲劇という感じだろう」
映像技術の問題 §
「トリコは2Dアニメ。ワンピースは3Dアニメだ。厳密な境界線は難しいけどね。おおむねそういう感じ」
「そうか」
「実際に見ると、トリコは平面のキャラを描いた平べったい看板が手前に立っている感じ。3D上映との連携が上手くできてない。ワンピースの方はそういう不自然さはない。最初から立体だからね」
「でも、3Dだとキャラが不自然にならないか?」
「別に自然だったぞ。いや、それ以上だ。揺らす意味がそのカットに無くてもナミの胸がかすかに揺れるのが良かった」
「3Dの方がいいの?」
「時代遅れのアニメ屋さんは柔らかいキャラクターは2Dの方が良くて、CGはメカなどの正確な線に適するなどとほざくが、実際はまるで違う」
「違うの?」
「キャラ専用のPoserという3DCGソフトが昔からあるし、他にもキャラ専用のソフトが出たこともある。でも、メカ専用のソフトなんて1回も見たことが無い」
「ええっ?」
「だいたい、正確な直線が必要ならCGは要らない。文房具屋で定規を買ってくるだけでいい。コンピューターの計算能力は正確な線を歪ませてねじ曲げるために存在するのだ」
「ひぇ~」
「そういう前提をまざまざと見せつけてくれる映画だったと言う意味で、今回のワンピースは良かったぞ」
「もっと具体的に今回のワンピースの良かったところはどこ?」
「激しく動くダイナミックなカメラワークと、キャラの服に描き込まれた模様と文字だ」
「文字が長所になるの?」
「なる。なぜなら、手描き2Dアニメだと文字を入れると線が増えてアニメーターが泣くが、3DCGならテクスチャを張るだけでそれほど手間は増えないからだ。せいぜい、適切な解像度のテクスチャを張る気配り程度だ」
「カメラって言うのは?」
「モデルの用意ができれば、3DCGはカメラを動かすだけであらゆる角度から物体が見えるが、手描き2Dは1枚1枚描かないと見えない。カメラのダイナミックさは3DCGでは息をするほど当たり前だが、2Dの世界では凄くハードルが高い」
「ひぇ~」
「2Dでも頑張ったらこれぐらいできる、と思う人がいるかも知れないがカメラを自由自在に動かすのは3DCGの世界では常識レベルの前提であって、頑張ってやることじゃないんだ。やって当たり前なんだ。それに、サウザンドサニー号の巨大感はテレビアニメよりももっと上手く出ていた気がするけど、これもまたカメラの問題だ」
「その差が、既に手描き2Dアニメの世界は死につつあるってことなんだね」
「そいつを証明するマイルストーンのような映画であった」
トリコ論 §
「余談だが、トリコって料理バトル漫画を文字通りに正しく曲解してる作品だな」
「普通、料理バトル漫画って両者が料理を作って判定者が勝ち負けを決めるね」
「でもトリコは本当に食材となる怪物相手にバトルする筋肉派だ」
「でも、それだけなら一発ネタだね」
「そうだ。アイデア一本勝負だ」
「あまり面白そうじゃ無いね」
「だから今回の映画では、そこに力点を置いていないわけだ。ゆえにこのシナリオは成功している」
「少年が男になるまでの寓話を語る小道具として、料理バトルが使われているだけなんだね」
「同時に、少年を導く年長者としてのトリコの視線も十分に見応えのある話であった」
「トリコの職業が何であるかは重要では無いってことだね」