ピアニシモは、縛り紐でした。
しかし、強度が無く、すぐに切れてしまうので、仲間から馬鹿にされていました。
特にピアニシモを馬鹿にしたのはフォルティシモです。重量物梱包用の強化繊維紐である彼は、けして切れず、どんな荷物も縛り上げました。
ある日、とても仕事が多く立て込んでいる日がありました。
その日は、ピアニシモも大忙しでした。しかし、一人前の顔でピアニシモが荷物を縛り上げているのを見ると、フォルティシモは面白くありません。そこで、一計を案じてピアニシモでは耐えられないほどの重量物を「サイズが小さいから軽い」と騙して割り当てました。
箱のサイズが小さいので引き受けたピアニシモですが、いざ持ち上げるとあっけなくピアニシモは切れてしまいました。現場は大混乱で、誰もが無謀な梱包に手を出したとピアニシモを怒りました。
しかし、ピアニシモから見ればそれはお門違いです。ピアニシモの強度は明示されており、それより重い荷物は割り当てられないはずだったからです。
そこで切れやすいピアニシモは切れました。ぷちんと紐が切れて凶悪な本性を現しました。
ピアニシモは他に紐達に巻き付くときつく縛り上げました。紐達は音を上げて倒れていきました。既に切れているピアニシモに、切れやすいという弱点は意味がありませんでした。
しかし、それでも最強のフォルティシモはなかなか音を上げませんでした。ついにピアニシモの方が折れて謝ることになりました。ピアニシモは悪くないと思っていましたが、それでも負けは負けです。謝るしかありません。
ついに、フォルティシモが名実共に縛り紐の頂点に君臨する日が来ました。
ピアニシモは下僕としてフォルティシモに仕えるしかありません。
そんなある日、お姫様が大切な贈り物を縛る紐を探しにやってきました。
フォルティシモは『自分が最強です。自分を使ってください』と名乗り出ました。
しかし、お姫様が「かわいい」として選んだのはピアニシモの方でした。
「これをもらっていくわ」
お姫様は、綺麗なピンクのリボンのピアニシモを持ち帰り、無骨なフォルティシモは相手にもしませんでした。
それからピアニシモは、上流階級の贈り物を包むために使われ、最上級の縛り紐と評価され、一生優雅に暮らしましたとさ。
(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)