「暗渠の道を発見すると思わず歌ってしまうのだ」
「なんて?」
「それで?」
「しかし、その先をいい加減に歌っているときに気付いたのだ」
「なにを?」
「海と大地を貫くものは何だろうか」
「海と陸地の中間にあるのは海岸線。あるいは、バイストンウェル?」
「違う違う」
「え?」
「絶対に海ではなく陸地に存在して、ほぼ確実に海とつながっているものがあったのだよ」
「それはなに?」
「川だ」
「へ?」
「河川水路は、直接間接に海につながっているケースが多い。しかし海には存在しない。海流はあっても川はない。水の中に川はできない。存在するのは陸地だけだ」
「途中で名前が変わるとか、湖に流れ込む川もあるじゃん」
「それでも最終的に海につながるケースが多い。たとえ湖に流れ込んでも、そこから海に至る流れがあるかもしれない」
「なるほど」
「つまりだな。河川水路は、それそのものが一種のファンタジー世界の一種であったわけだ。異世界に行く必要など無い。そこに異世界そのものがあるわけだ」
「異世界か」
「そうだ。日常生活とは馴染まず、地域を分断し、大雨が降れば洪水という侵攻軍が押し寄せてくる」
「暗渠というのは、そういう河川水路の慣れの果てという意味で、よく馴染んだわけだね」
余談 §
「玉川上水は四谷大木戸までだが江戸の水道網を通して海に至る」
「うん」
「神田川も江戸川に流れ込むが、そのまま東京湾に流れ込む」
「そうだね」
「結局、みんな母なる海につながっているわけだ」
「そうか」
「人間だって、身体の中に小さな海を抱えているようなものだしね」