2011年05月18日
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34巻・感想「さらば宇宙戦艦ヤマト」

Written By: 川俣 晶連絡先

「というわけで、ネギま!34巻だ」

「意欲を失ったのでは無かったのかい? なぜ喜んで買っているの?」

「一応、Jコミの動きには注目しているのでね」

「でも、もう限定版を買うほどの意欲は無いって事だね」

「アニメを含むメディアミックスとは完全に切れた」

「映画版の上映が決まったみたいじゃない」

「映画版を見るかどうかはまったくの白紙だ」

「アニメとは完全に切れたというのに、白紙というのは矛盾するじゃ無いか」

「だからさ。どんな映画も見るまで予断は持てないという理由が他にあるのだ」

「別の理由か」

34巻感想 §

「さて、実際の34巻はどうだった?」

「ちょっと後半がおじさんにはきつかったかな」

「どうして? もう若い人の感性について行けないから?」

「そうじゃなくて、後半はまんま『さらば宇宙戦艦ヤマト』だったからだ」

「えっ?」

  • 過剰にドラマチックに死にすぎる仲間。でも少しは残る
  • 勝ったと思ったら隠された真の敵
  • 最大の敵だった男がなぜか敵を撃ってくれる
  • 決戦の前に、わざわざ敵の前面に出る
  • 敵の情報をくれる敵
  • そこにいないはずの人がずらりと並ぶ。死者も生者も含む
  • そこにいないはずの人が説教してくれて、戦えという
  • 最後に一緒になってくれる謎の人物 (テレサと墓所の主)

「なんだよこれ」

「しかも、仲間をかばって石化されるユーナキッドなんて山本だよ」

「山本?」

「若桜木虔の小説版や、SPACE BATTLESHIP ヤマトだと山本は仲間の盾になって墜落するわけだ」

「なるほど」

「と思ったらジョニーさんの方がもっと山本っぽいぞ。自分の機体を盾にして仲間をかばってるんだからな」

「わははは」

「それで、まんま『さらば宇宙戦艦ヤマト』というのはどう思うのだい?」

「そうだね。それは非常に微妙で難しい問題を含む」

「というと?」

「実際には以下の異なる問題が含まれる」

  • さらば宇宙戦艦ヤマトをどう評価するかと言う問題
  • さらば宇宙戦艦ヤマトを模倣することの是非の問題
  • さらば宇宙戦艦ヤマトを上手く模倣できているかという問題
  • さらば宇宙戦艦ヤマトなんてしったこっちゃない若い世代はどう受け止めるのかという問題

「じゃあ、最初から行こう。さらば宇宙戦艦ヤマトをどう評価するかと言う問題だ、君はどう評価するのだ?」

「それも微妙だ。特攻する結末が悪いという人もいるが、あれは零戦黒雲一家だという話もある。モチーフがあるなら、あえてモチーフに従うこともやり方の1つだ。悪いと一概に言って良いのかワカラン。そこはまだ確定できていない」

「そうか」

「ただ、単に特攻賛美の右翼アニメという評価は表面を撫でているだけで浅すぎる。もう1枚裏があるという気はしているよ」

「つまり、したり顔であの映画を批判する人はむしろ底が浅いと言うわけだね」

「ああ。言うとも。底が浅い。表面のしかも浅い部分しか見てない」

「じゃあ、模倣の是非は?」

「モロにパクることは悪いことだ。盗作だ。しかし、骨格レベルで他の作品に沿うことが悪いとは思わないが、どちらかと言えば無自覚に似せてしまったような気がする」

「では、そこは肯定するのだね?」

「いや、軍人である軍艦の乗組員とクラスメートは同列に扱えないという意味で、やはり無理があると思う。たぶん、クラスメートは1人でも大怪我をしたら敗北を認めて撤退が妥当なところだろう」

「では、模倣が上手いかという問題は?」

「これも技術面での時代差があるから評価は難しいね。まあ、さしたる意味も無く引っ張りすぎという感じはあるけど」

「なら、若い世代の受け止め方はどう思う?」

「うん。単純に感動したって人も多いと思う。それは否定しない」

「否定しないのか」

「おいらだって、さらば宇宙戦艦ヤマト最初に見たときは泣いたもん」

「泣いたのか」

「でもさ。一方で、こんなお涙頂戴で泣けるか、という層もあって彼らからの批判に涙は晒された」

「同じ事が繰り返されるってことだね」

「うん。だから、君たちの涙は肯定されないかも知れないが、それも昔からよくあることに過ぎないってことだ」

「夢も希望も無い評価だね」

「かつてデロリンマンが好きだった子供だった者に、夢も希望も無いのは当然だ」

総論として §

「じゃあ、総論として君はこの状況をどう見る?」

「カバーの折り返しを見ると、作者はがんばってアイデアを出して工夫したと思っているようだ。それは嘘ではあるまい。ただし、登場人物を不必要に増やしすぎて枝葉の部分の整合性に注意力を取られて、結果的に骨格が無意識的にさらば宇宙戦艦ヤマトになってしまっただけなのだろう」

「無意識的にか」

「若い頃に見て無意識レベルまで刷り込まれていたのかも知れない」

「なぜそう言い切れるの?」

「作者はそういう世代だからだ」

「ひぇ~」

「あと、Jコミにもいろいろ労力を取られて十分にネギま!に集中できていないと言う側面があるのかも知れない」

「それは痛いね」

「作者側の心情としてはもう終わっている作品なんだろう」

「夏の映画までこれで引っ張れるの?」

「おそらく、引っ張れないので映画はハヤテのごとくと抱き合わせセット販売なんだろう」

「ハヤテのごとくはどう評価するのだい?」

「別に。読んでないし。アニメも見てない」

「じゃあこの状況はどう見るの?」

「ワンピースの映画を見に行くとトリコの映画が付いてくるような話なのだろう」

「そうか」

「でも、トリコの映画はとても面白かったから否定はせんぞ。とても意外なことにね」

「どんな映画も見る前から予断は持てないってことだね」

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