「昨日のゴーカイジャーの凄いところは、私掠船を登場させた点だ」
「私掠船? 勝手に略奪する船のこと?」
「そうじゃない。戦争当事国が敵国の船から奪うことを公認した個人の船をいう」
「えーと、軍艦じゃないの?」
「そうだ」
「でも敵から奪ってるの?」
「そうだ」
「政府公認なの?」
「そうだ」
「なんか良く分からないよ」
「そうだ。良く分からないのだ。良く分からないので、しばしば扱いを勘違いされる。たとえば、仮想巡洋艦を私掠船と呼んでいる本も過去に見たことがあるよ」
「仮装巡洋艦?」
「簡単に言えば、商船に武器を積んでいる船だ。これはたとえ商船がベースでも軍人が運用する軍艦の一種だ」
「軍艦の一種である以上、私掠船にはあたらないわけだね」
「その点で、実はワンピースはよくやっている。王下七武海というのは私掠船なのだ。彼らは私的な立場で政府の協力者になっているだけで、海軍組織の一部ではない。協力の結果、特権が認められている」
「そうか」
「しかし、これは非常に分かりにくい。海賊対海軍という構図なら分かりやすいが、海賊の一部は海軍の味方であり、構造が分かりにくい。しかし、許可を得た上で、海軍の敵だけを攻撃して略奪する海賊は、本来海軍の味方なのだ」
「それは確かに分かりにくいね」
「だからさ。昨日のゴーカイジャーの秀逸性とは、悪の幹部達の会話で敵の大将が良く分からないと首を傾げてしまうところだ。私掠船とはもともと分かりにくい概念なので、『よく分からない』と認めてしまうのが私掠船理解の最初の一歩なのだ」
「次はどうしたらいいの?」
「王下七武海のような別の名前を与えるのも1つの手段だろうね」
「でも、ゴーカイジャーはその手段を執っていないのだろう?」
「そうだ。その代わり、主人公との関係で『かつての仲間でありながら裏切って政府に内通した』というポジションを与えられ、それを通して立場を見やすくしている」
「私掠船という概念を個人的な人間関係に落とし込んだわけだね」
「小さな子供も見る戦隊では、この措置は妥当なところだろう」
余談 §
「どうでもいいが、アカレッドって、なんだよ。英語圏に持って行ったらレッドレッドって呼ぶのかよ」
「わははは」
「と思ったら、ゴーカイジャーのオリジナルキャラではなく、2007年の『轟轟戦隊ボウケンジャーVSスーパー戦隊』に既に出ていたらしい」
「そうか」
「でも結局許す」
「どうして?」
「アカって呼ばれるヒーローはまるでゴレンジャーのアカレンジャーが戻って来たようじゃないか」
「どうして?」
「いいわね、いくわよ、ミド! キ! アオ! アカ! フィニッシュ!」
「なんか古いこと言ってる人がいるよ」
「更にどうでもいい話だが」
「なんだい?」
「ゴレンジャーとジャッカーをスーパー戦隊に入れると困ることは巨大ロボ持って無いことだ。ロボ戦になると参加できなくて困る」
「うん」
「でも、スーパー戦隊199ヒーロー大決戦の宣伝でロボの他に『2大飛行メカ』とさりげなく言っているので気付いた。バリブルーン(またはバリドリーン)に乗って行けばゴレンジャーも巨大化した敵とも戦えるわけだ」
「いいのかそれで」
「バリキキューンで飛んでいくよりはマシだろう」
「ぎゃふん」
余談2 §
WikiPediaの王下七武海より
史実上の海賊の一種「私掠船(プライベーティア)」がモデル[1]。
「念のため見たらぶっとんだ」
「私掠船は英語でprivateerっていうんだ。あれ、逆か。privateerの日本語訳が私掠船なんだ」
「それがどうしたの?」
「おいらは常識的にこの英単語をよく知っていた」
「どうして?」
「昔、アメリカ海軍の歴史を書いた本を読んで以来、ずっと私掠船=privateerはひそかに興味の対象だったからだ」
「アメリカ海軍の歴史になぜそんなものが出てくるの?」
「初期のアメリカ海軍とは海賊対策のための組織だったからだ。日本と戦争やってエセックス級並べて戦艦大和を沈めてしまうようなアメリカ海軍は後期のアメリカ海軍だ」
「そうか」
「でも、日本では私掠船の文字を見ることはあっても、英語表記の文字を見る機会はまずなかった」
「なるほど」
「ちなみに、英語のWikiPediaのprivateerにはこんなことも書いてあったぞ」
In the manga/anime series One Piece, the Shichibukai are loosely based on the concept of Privateers.
「looselyって?」
「まあ、そうだろうな。あの王下七武海がリアルな私掠船のわけがない。見たら分かるだろう」
「常識レベルでも……ね」
「まあ詳しく知ってもかなり別物だけどね」
「そうか」
「そういう意味では、ゴーカイジャーも"loosely based on"になるけど、まあそこは気にしたら負けだ」
「なぜ負けちゃうの?」
「そもそも、日本ではほとんど親しみの無い概念だからね。リアルな私掠船は語るだけ無駄だろう」
「それこそ、我が大日本帝国海軍よりアメリカ海軍の歴史が好きとかいう変態にしか分からない話ってことだね」