海賊ラジャーは、考えた。自分の海賊船、ナイカディア号は素晴らしい。最大の船体に最強の武装と最強の切り込み隊を擁していた。どのような商船だろうと、どんな自衛手段も無効にして積み荷を奪える自信があった。更に、エンジンも積み替えていて、逃げ足も速かった。海賊を取り締まる海軍の大戦艦の戦闘力はナイカディア号に優越したが、たいていの軍艦は速度で振り切れる自信があった。
しかし海賊ラジャーにも怖いものが1つだけあった。海軍の快速駆逐艦アイランド・ウィンドだ。あの船ならナイカディア号に追いつくことができる速力がある。もちろん、小型の駆逐艦の1隻ぐらいナイカディア号の敵ではない。だが必殺の魚雷を撃ち込まれるとナイカディア号が沈められる可能性もあった。もちろん、そこまで接近すればアイランド・ウィンドぐらい沈める自信はあったが、相打ちだ。そして、いくらアイランド・ウィンドが高価な特注駆逐艦だと言っても、再建造は容易だ。普通の駆逐艦よりも値段が高いというだけで、巡洋艦よりも遙かに安かったのだ。しかし、ナイカディア号は容易には再建できなかった。予算も半端ではない上に、既に入手できない特殊な部品も多用しているからだ。
そこで海賊ラジャーは考えた。アイランド・ウィンド対策はどうしても必要だ。そのためには、アイランド・ウィンドに魚雷を発射させてはならない。どうすれば、そうできるのか。魚雷の射程外で沈めてしまえばいいのだ。そのために、大遠距離砲を搭載しよう。海賊ラジャーは近くの港に寄港したとき、武器商人から大遠距離砲を買い込んだ。
しかし、大遠距離砲を積んだ荷馬車を引きながら船に戻った海賊ラジャーは驚いた。なんと、隣の桟橋にあの憎きアイランド・ウィンドが停泊しているではないか。海賊として指名手配されていない中立国の港ではしばしば見られる光景だった。
「ちゃーんす!」
海賊ラジャーはすぐに船を出航させた。
計画はこうだ。
この国の領海内では武器の使用が禁じられている。領海は12海里だ。この距離は、砲弾が届く距離を前提に決められている。しかし、買ったばかりの大遠距離砲ならそれ以上届く。公海に出てからアイランド・ウィンドを砲撃できるのだ。
海賊ラジャーは大遠距離砲の据え付けを自ら指揮し、急がせた。
「大変です、船長!」と見張りが叫んでも耳を貸さなかった。アイランド・ウィンドが港から動いていない今、他のことは全て後回しにして砲を据え付けるべきだったからだ。
「よし、準備完了! これで目にものをみせてくれる!」
海賊ラジャーが顔を上げると、なぜかナイカディア号の甲板上に海兵がずらっと並んでいた。
「ややっ。海兵! なぜナイカディア号に!」
「大戦艦で港の出口を塞いで待ち伏せたのだ」と海兵が答えた。「いくらスピードが遅い大戦艦でも、港の出口で待っていれば絶対にナイカディア号を補足できるからな。はっはっは!」
海賊ラジャーは自分が失敗したことを悟った。拘束される前に、やけくそで大遠距離砲を発射した。砲弾は見事に停泊中のアイランド・ウィンドに命中して、真っ二つに割けて轟沈した。
だが、既に拿捕されていたナイカディア号と海賊ラジャーの罪状が1つ増えただけであった。
(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)
