2012年05月02日
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「僕の考えた素晴らしい解決方法」という病根

Written By: 川俣 晶連絡先

「このページは何を言っているんだい?」

「最後にダミーデータを1つ入れておけば、最後の項目だけカンマ不要という制約をクリア出来て僕って頭いい、という内容」

「それで、本当に頭がいいの?」

「良くない。項目が1つ増えるとプログラム上の意味が変わってしまうからだ。意味が変わると、開発チーム内の意思疎通が不十分だとトラブルが起きやすいし、利用したライブラリの動作が変わってしまうこともあるが、事前に変わるか変わらないか予見することは難しい。しかし、そのことはここで言いたいことは何の関係も無いので、横に置く」

「じゃあ何が言いたいんだよ」

「今の文化は、この手の病根が珍しくも無い」

「なぜ珍しくも無いの?」

「うるさい年長者を排斥して成立した文化だからだろうな」

「うるさい年長者を排斥すると、なぜ病根がはびこるの?」

「つまり、やってみると分かる経験的な潜在リスクというものがあって、年長者は経験が長いからそれを知っている。だから、それはダメだと言うことができる。しかし若者は経験が浅いからなぜそれがダメなのか分からない。せっかく自分が考えた賢い方法をけなされたと思ってしまうケースも多い。ならば、最も簡単な方法は自分たちが言論の多数派を形成して、自分たちが主流になってしまう方法だ」

「なるほど。でもさ。それって何の問題解決にもなってないじゃない。経験を深めていくうちに、問題に遭遇しちゃうじゃない」

「そうだよ」

「あっさり言うねえ」

「その通り。あっさり先が見えちゃうから、その道は行き止まりだよと言えるのだけど、もともと聞く耳を持ってない人は突っ込んでいくわけだ」

「それって自滅願望?」

「さあな。それは知らんよ」

「ところで、必ず年長者は正しいの?」

「そうとも言いきれない」

「なぜ言いきれないの?」

「単に、過去の常識を述べているだけのケースもあるからだ。状況が変化したら常識が変化することもある。しかし、しばしばどのような背景で規定される常識なのかという意識を持たない人もいる」

「それはそれで問題のような……」

「そうさ。大問題だ。だから未だにVB6という悪魔のキーワードに悩まされる人は絶えない」

「じゃあさ。年長者がそれはダメだよ、と言ったとき、本当にダメなケースと、ダメじゃないケースがあるってこと?」

「そうだよ」

「またもやあっさり言うね」

「その通り。しかも、問題はここから更にややこしくなる」

「なぜややこしいんだよ」

「なぜなら、若者の常識が古いことは珍しくないからだ」

「なぜ古いんだよ。若いのだろう?」

「ネットで主流の世論を形成する層が既に若くないからだ。彼らが常識をアップデートしているかと言えば、それも怪しい。そこで、そういう世界に踏み込む若者からは、古い常識こそが最先端に見えてしまう矛盾が起こりやすい」

「それもなかなかえぐいな」

「そうさ。若者にはとても生きにくい世界になっていると思うぞ」

「どうしたら解決できるんだい?」

「頭で考えるな。体当たりして玉砕しろ」

「玉砕しちゃダメだよ。問題を解決したいんだから」

「だからさ。真実は玉砕覚悟で突っ込んだ先にしか無いんだよ」

「頭で考えて何とかならないの?」

「それは無理。若者はどれほど知恵があっても経験が足りない。頭だけではどうにもならない」

「自分の賢さに自信があったら、受け入れがたい認識じゃないか?」

「そうだよ」

「またあっさり言うね」

「だって、若いというのはそういうことさ」

「ぎゃふん」