2012年05月04日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 1981 count

三百字小説『争乱武士』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オレは武士になりたかった。普段はなまけても、いざ鎌倉のときに活躍すれば良い。そんな男になりたかった。

 オレは必死に剣術を稽古し、幕府の武士登用試験に合格した。狭き門を開いたのだ。

 「立派な成績を上げたおまえには、領地を与えよう」

 「ははあ。有り難き幸せ」

 「では毎年立派な年貢も納めるように」

 「は?」

 「おまえの前任の領主は、普段はなまけても、いざ鎌倉のときに活躍すれば良いという甘ちゃんだった。年貢もろくに納めない奴だった。おまえも同じような男になるなよ」

 普段なまけることは不可能になった。

(遠野秋彦・作 ©2012 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦