オレは武士になりたかった。普段はなまけても、いざ鎌倉のときに活躍すれば良い。そんな男になりたかった。
オレは必死に剣術を稽古し、幕府の武士登用試験に合格した。狭き門を開いたのだ。
「立派な成績を上げたおまえには、領地を与えよう」
「ははあ。有り難き幸せ」
「では毎年立派な年貢も納めるように」
「は?」
「おまえの前任の領主は、普段はなまけても、いざ鎌倉のときに活躍すれば良いという甘ちゃんだった。年貢もろくに納めない奴だった。おまえも同じような男になるなよ」
普段なまけることは不可能になった。
(遠野秋彦・作 ©2012 TOHNO, Akihiko)