「この本は既に売っていない本なのだ」
「へー」
「ヤフオクに出ているよ、という情報を頂いて落札した。波乱も無く定価で落札」
「なるほど」
「中身は、無味乾燥に新旧地名が並んでいるだけの本を想定していた」
「それでも良かったの?」
「意味を与えるのはこちらだ」
「なるほど」
「と思ったら大違い。凄い濃い中身だよ。極小郷土史の集大成本と言える。数年かけて調べた話題がゴロゴロ入っているのだ。それは衝撃。しかも、それは自分が知っている範囲に限られて、杉並区のほんの一部。それと同じ密度で他の地域も記述が並ぶ」
「たとえば?」
「郵政グラウンドの西に、「さんぜん釜」と呼ぶ三坪のほどの泉があった、とかね。しかも逸話が詳しく書いてある。えらいこっちゃ」
「他には?」
「(太田)道灌が鎌倉橋に鷹狩りに来ていたとかね。けっこう目新しい説明もある」
「鷹狩りに来てどうした?」
「この地に来て食べた団子が新宿の追分団子の起源であると語る古老もある、だそうだ」
「古老もある……かよ」
「でも、内藤さんがいっぱいの高井戸に近い鎌倉橋だ。そこと内藤新宿の関連性があるとすれば、それは意味がありそうだ」
「えー」
「いろいろ深いぞ」
「でも古い本なのだろう?」
「扱っているのが歴史だからな。昔のことは、昔の人でも同じように分かる」
「なるほど」