「本棚から発掘された未読の『大聖神―中村春吉秘境探検記』を読み終わったが、これ凄く面白いな」
「古い本だろ?」
「書かれたのも古いが、舞台はもっと古い」
「それで、中村春吉って誰?」
「戦前に自転車で世界を一周した男」
「それはスケールが大きい」
「この小説は、けっこう差別的な言動が出てくるのだが、それは当時の小説を模倣した必然なのだろう。実際には、ロシア人のスパイ女をわざわざ助けるなど、差別の無い人道的な行動が多く描かれている」
「舞台背景を意識しないと、表現の真意は分からないわけだね」
「戦う強い女も出てくる。強くて凛々しくて魅力的だが、奥ゆかしい面もある。時代的に女性はそのような奥ゆかしさを強要されてしまう時代を背景に持っているからだ」
「誉めてるねえ」
「問題描写も含めて実は芸なのだよ。とても芸達者だ」