「桜井さん。根掘り葉掘り失礼な質問に答えて頂きありがとう」
「それで君はこれからどうするんだい?」
「緑の宇宙戦艦ヤマトは、未完成だ。汚しとディティールアップはこれから継続して実行する」
「そうか」
「ちなみに、持っていく前に最終的に苦労したのは煙突の取り付け。塗料が穴に入り込むとダボが差し込めなくなる。最初からキツキツだったのだ」
「それで?」
「ダボを切って対処したけど、実は桜井さんがもっとクールな対処方法を見せてくれた」
「どんな方法?」
「煙突の下に4本のダボが出ているが、それらが斜めに切ってあった」
「えっ?」
「斜めだから、きつい穴にも素直に入るしかし、ガイドとしての役割は残っているから位置はずれない。右列と左列で異なる向きに切っておけばね」
「なるほど」
今後のスケジュール §
「これからはどんなスケジュールで組んでいく予定だい?」
「マイペースで行くさ。アマだし、キャラホビという目安もクリアしたし、急ぐ理由もないし、あとは好き勝手にやるだけだ」
「汚しとディティールアップ?」
「そう」
「カタパルトにコスモファルコン載せないの?」
「いきなりオーバースケールって言われたので考え中だ」
「えー」
「しかし、付ければそれも一種のディティールアップだ」
自室よヤマトは帰ってきた §
「14万8千光年離れた幕張からついに無事帰還したマイヤマト」
「他に何か言いたいことがあるの?」
「運搬システムの出来は良かった。成功だ。マイヤマトの崩壊は避けられた」
「ロジスティクスの勝利ということだね」
「台座を必ず下にて袋に入れるよう心がけたしね」
「仮に外れてもヤマト本体に落下して壊したりしない配慮だね」
「しかし、そこで考えた。ヤマトを持ち込んだのは実は自分だけだったみたいだ。他にも、キットを買った人は多いと思われるのに、持ち込んで一緒に作ろうとか私の作例を見て見てという人は少ないようだ。これはなぜだろう」
「シャイだから?」
「実はもっとストレートな理由に思い至った」
「なに?」
「運搬システムを作れない。あるいは、作っていないモデラーが実は多いのかも知れない」
「なぜそう思うの?」
「実際、死んだ父がそうだったからだ。保管用のケースがあるだけで、運搬用のケースが無い。実はそういうモデラーが多いのではないだろうか」
「そうなの?」
「実はプロは作例を撮影スタジオや編集部に持ち込む関係で、そのようなものを整備しているはずだ。あと、ワンフェスなどで展示を行うディーラーもだ。しかし、一般のモデラーはあまりそういうものを作らないのかも知れない」
「コンテストは?」
「写真を送るだけで参加できるなら、現物の輸送用の箱は作らない」
「うーむ」
「この問題は意外と根が深いかも知れない」
「というと?」
「太平洋戦争の日本の敗北はロジスティクスの敗北だからだ」
「決戦で戦艦が戦って勝敗を決めたかったのに、輸送船を沈められて負けたわけだね」
「そう。だから必用だったのはフリゲートや護衛空母だったのだよ。戦艦や正規空母ではない」
「分かった。戦艦を建造する前にフリゲートを作れというのと同じで、凄い模型を作る前に前作の輸送用の箱を整備しろってことだね」
「そうだな。どうしても前線の装備にばかり目が行くのが日本人の弱点と言えるかも知れない」
「しかし、君だって輸送用の箱を用意していない模型も多いよ」
「まあな。そのへんは、その気になればすぐ作れるノウハウはあるってことだ。運ぶ予定の無い模型の箱を作っても場所ふさぎになって邪魔になるだけだから。そのへんは割り切りだ」