「やっと見たのか」
「首がまわらないが、強引にスケジュールに突っ込んで見たよ」
「感想はどうだい?」
「とりあえず、004の足にミサイルが入っていたら許して帰ってこようと思った」
「それで?」
「入っていたみたいなので、納得して帰ってきた。以上おしまい」
それじゃワカラン §
「それじゃぜんぜん分からないよ。もっとまともな感想を頼むよ」
「角が立つからソフトに感想を述べたのに」
「角が立ってもいいから本音を聞かせてよ。それが聞きたい人もきっと多いと思うよ」
「そうか?」
「そうだよ! 君の目から見てこの映画は何に見えた?」
「009じゃなくて、押井映画のパチモン」
「は?」
「だからさ。009の新作というよりも押井モドキを見せられたという感想が先に立つわけだ」
「えー」
「つまりね。押井映画のモチーフが大量に入ってはいるけれど、突っ込みが浅すぎて表面的な類似に留まっているわけ。分かっていればそういう表現にはならないだろう……という感想しか残らない」
「なんだよそれ」
「突然謎の女の子が走っているとか、どこのAvalonだよって感じだし。イノセンスとか、その他の映画っぽう要素もけっこう多い。記憶を失って高校生を繰り返すジョーは、まるで学園祭前日を繰り返す某映画」
「じゃあ、それはそれとしてあくまで009の新作として見た場合はどう?」
「009のいちばん面白いアニメ化は平成版だったな。ということでおしまいかね」
「えー。あのテレビアニメかよ」
「うん」
「どのへんがつまらない?」
「結局、出番が多いのは002と003と009だけで、ピュンマなんてほんの一瞬で出番が終わってしまうし、ジェロニモもほとんどキャラクター性がない。そもそも、9人の戦鬼をこの程度の時間で描くことに無理がある。グレート・ブリテンも序盤こそ出番があるものの途中から消えてしまうし」
「そんな」
「サブキャラも扱いが酷い。ヒルズで一緒にいたジョーの彼女は意味ありげに出てきたのに結局そのあと出番が無い。ジョーの夢に1回出てきただけだ。あれなどは完全にシナリオの敗北だろう」
「敗北?」
「この映画はまずシナリオがあまりにもダメすぎる。自分が監督ならこんなシナリオは一撃で却下だ」
「脚本・監督 - 神山健治だから、監督と脚本はイコールなんだよ」
「絵は綺麗なのだが、せっかく3DCGを使っている割にそれが生かし切れていない。見せ場ではカメラが動くが、そうではないカットではカメラ固定も多い。そういうビジュアル作りもけっこう甘い感じがあるな」
「ともかくまとめてよ」
「自分が脚本を書いていたら、ここまで酷くはならなかっただろう」
「えー、素人のくせになんて自意識過剰」
「……と素人にまで思わせた段階で問題の病巣が明らかになるような気がするね」
劇場 §
「劇場は、思ったよりも人が少なかった。並の映画よりは少し多い気がしたけれど、それでもガラガラ。終わった後、ぜんぜん熱気も興奮も感じられなかった。疲れた足取りでみんなトボトボ帰って行く感じ」
「なんだよそれは」
「肩すかしを感じたのは自分だけではないと思ったよ」
更に言えば §
「実はこの問題で気になるのは、この映画に興奮して褒め称えている人たちがTwitter等で割と多いこと。彼らは興奮したふりをしているのか。本音で興奮しているのか。本音だとすれば、彼らはいったい何を見て興奮したのか」
「君は何か仮説があるかい?」
「実は、なぜ009のサイボーグの綴りをSYBORGと間違える者が多いのか?で述べた仮説の延長線上で、平成版009も見ていないし、最近の押井映画もみていない人たちが大挙して試写会に招待され、いきなり2013年レベルの映像を見せられて仰天しているだけ……というのが割と真相ではなかろうか」
「君はどうなんだい?」
「映像の水準は事前に予告編等で織り込み済みだから、この映像には何ら驚かない。純粋に、ストーリーを見に行った」
墓標 §
「では君は金を払ってこれを見る価値はあると思うかい?」
「自分は納得した」
「なぜ?」
「009の墓標。現在のオタク界の惨状。そういうものを具体的に代表するものを見られたからだ。気持に1つの区切りが付いた」
「1つ怖い質問をしていいかい?」
「なんだ?」
「最初からそれを予測して見に行った?」
「うん」
「ひぇ~」
オマケ §
「富野由悠季さんのぎりぎり合格点を付けられない採点の意味が分かったよ」
「どういう意味?」
「120点付けてもいい良く出来た要素もあれば、論外の要素もある。平均するとぎりぎり合格には届かない微妙なポジションなんだろう」