三百字小説『針谷さんのハリヤァー』

　針谷さんには奇癖がある。

　「ハリヤァー」というかけ声で垂直にジャンプするのだ。

　何でも、これがいちばん気合いが入るそうだ。

　しかし問題が1つあった。結婚すると姓が変わるから、同じことを言っていてはますます意味不明の奇癖になってしまう。

　針谷さんは似た名前の結婚相手を探したがなかなか見つからなかった。

　しかし針谷さんは初志を曲げなかった。

　「私は絶対諦めない!　結婚してもハリヤァーと矛盾しない名前を名乗るの!」

　針谷さんは婿養子を取った。

(遠野秋彦・作 ©2012 TOHNO, Akihiko)