2013年02月09日
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なぜ零戦の映画を宮崎駿さんは作らねばならないのか・あるいは片渕須直さんと零戦のお話

Written By: トーノZERO連絡先

「ただの思いつきのメモだ」

「なんだよ」

「なぜ宮崎駿さんは今になって風立ちぬという零戦の映画を作るのか」

「飛行機が好きだからじゃないの?」

「いや。昔は零戦をやりたいなどというそぶりは全く見せていなかった」

「えっ?」

「だから、ちょっと気づいたことをメモするだけだ。正しいかどうかは知らない」

三角関係 §

「ここで問題を宮崎駿さんと片渕須直さんが、零戦を挟んで三角関係にあるという前提で話を進めてみよう」

「意味分からないよ」

「そうだろう。たかが飛行機が三角関係の頂点に立てるとは普通思わない。そういう人は、飛行機に美少女デカールをでかでかと貼る痛機を受容することに疑問を感じない」

「じゃあ普通じゃない飛行機マニアはどう思うんだよ」

「飛行機は飛行機であるだけでセクシーだ。無駄に大きく美少女を描くことは、かえって飛行機のセクシーさを損なう。しかも昔からノーズアートに全裸半裸の女が描かれていることは多い。女を描くことそのものは飛行機マニアとしては当たり前すぎてあくびが出るのだ」

「ぎゃふん」

「というわけで、宮崎駿さんは飛行機が好き。そんなことは宮崎アニメを見れば分かる。飛行機、飛行船、空を飛ぶ機械、空を飛ぶ魔法、そんなものばかり」

「じゃあ片渕須直さんは?」

「飛行機大好き。ACE COMBAT 04/5のストーリーにも関わっている。黄色の13も、謎の女1号も彼が産み出したキャラクターらしいぞ」

「えー」

「そして零戦の研究もしている。その具体的な根拠はネット上であっさりと見つかった」

「2000年頃には既に零戦の研究趣味に走っていたわけだね」

「そうだ。最近でもTwitterでも飴色関係の発言を見たことがある」

すると…… §

「実はそうなってくると時系列的に、宮崎駿さんが唐突に零戦を取り上げる根拠が出てくる」

「なぜ?」

「零戦のことは俺の方がよく分かるんだ。俺の家は零戦の部品を作っていたんだぞ」

「は?」

「そんな風に受け止めた可能性がある。あまりにも手垢が付きすぎて陳腐すぎる零戦だが、対抗意識を燃やすなら取り組むべきテーマになる」

「それで?」

「2000年頃に問題意識を持ち、それから陳腐ではない解決策を探り、堀越技士と風立ちぬという切り口を発見してモデルグラフィックに試験的にコミックを発表、そして、ここで映画。そう思うと、それほど時系列的に無理がない」

「えー」

「片渕須直さんと零戦飴色説が引き金になったという仮説を立ててみた」

「本当?」

「さあ。ただの仮説だよ」

WHY? §

「なぜ宮崎駿さんが、片渕須直さんを意識するの?」

「魔女の宅急便は片渕須直監督で進行していたが、途中から宮崎駿監督に変わった。一緒に仕事をしている映画が他にいくつかある」

「えー」

「交代の経緯はどうもはっきりしない。昔、本に書いてあった経緯と、現在ネットで流布している経緯はどうも違っているような感じだし」

「ひ~」

「何か一筋縄で行かないドロドロの問題があった可能性もある」

「ドロドロ?」

「結局さ。飛行機好きの性格がかぶりすぎなんだ」

「えー」

「宮崎駿さん達の趣味はそれぞれ分業しているという話がある」

「どんなに風に?」

「ジープと鉄道は大塚さんとか」

「そうか。そういう見方をすると、趣味が分かれているから共存できる面があるけれど、趣味がかぶると大変なんだ」

「そうそう」

「それで?」

「魔女の宅急便は必然的に飛ぶ映画だ。そして、片渕須直監督で準備されていたのを、途中から宮崎駿監督になった。そこでは、監督の違いを示さねばならない。実際にフィルムになった魔女の宅急便は『片渕須直よ、これが飛行機だ』というメッセージ性が暗に存在していたのではないだろうか。あるいは片渕魔女宅企画の残沙のようなものがフィルムに残ったのではないか」

「なぜそう思うの?」

「飛ぶ映画が宮崎映画には多いのは事実だし、魔女宅もそう見るならばその通り。でも、他の映画と魔女宅は飛び方が少し異質なのだ」

「どこが?」

「たとえば、トンボの人力飛行機。人力飛行機というモチーフそのものが宮崎っぽくない。伯爵はオートジャイロで帰還して、オートジャイロとは古風だねえと言われるのだ」

「意味分からないよ」

「そもそも、宮崎映画の世界では、飛行機とは他者が作り既に存在しているものだ。自力で作り、飛ぶものではない。パズーは飛行機を作っているが、実はそれには乗らないで外部から来た空賊のフラップターに乗ってしまう」

「ああ、分かったぞ。だから、飛行機を作る人の堀越技士にフォーカスした風立ちぬはそういう意味でも過去の宮崎飛行機映画っぽくないわけか」

「だからさ。風立ちぬは宮崎駿さんが引退前に死角を埋めようとしている映画とも受け取れるし、魔女宅のリベンジとも受け取れる」

「リベンジ?」

「ここがポイント」

「つまりなに?」

「リベンジが必要ということは、宮崎駿さんは片渕須直さんに勝ったと思っていないことを示す。それは片渕魔女宅に本当の意味で勝っていない部分があることを示す」

「いったいどこに?」

「さあ。それは知らない。それに、あくまで当事者の心理的なものだろう。部外者に分かるようなものではいかもしれない」

ACE COMBAT 04のストーリー問題 §

「ACE COMBAT 04はストーリーがぐちゃぐちゃだ」

「片渕須直さんのドラマパートだね」

「そう。ともかく、敵の黄色中隊がどれだけ慕われ、心の支えになり、人間的であり、不足する資材に困っているかが描かれる。なのに、プレイヤーはその黄色中隊を撃墜しなければならない。AWACSは撃墜を命令してきて、我々のエースは彼らより速いと煽ってくる。ひでえ話だ」

「ひぇ~」

「最初あれはダメだと思った。クリアするだけでやっとのひよっこプレイヤーには厳しすぎる内容だ」

「なんで?」

「一瞬ためらう、ということすらできないからさ」

「それが変わったの?」

「慣れてくれば印象が変わる。無名の少年と少女のヒーローを喜んで撃墜する悪魔になる快楽を楽しめる」

「メビウスワンは悪魔かよ」

「悪魔はラーズグリーズけどな」

「ぎゃふん」

「でもさ。実はACE COMBAT 5もストーリーの構成が凄く上手い。スパイの嫌疑が掛けられた戦果を上げつつけるひよっこ部隊。最後には基地すら脱出して味方機に追跡される。先導してくれるおやじさんは陰謀を巡らす陰謀国家の正体を隠した亡命者。そこから意外な援助者が現れて幽閉された大統領を救出して、敵国の大統領も救出して陰謀を暴いて、最後の決戦では『その歌は我々も好きだ』とかつて戦っていた両軍兵士が参加してくれる。非常によくできたストーリーだ」

「そうか」

「だからさ。何があったのかは知らないが、何かのしこりが残っていて風立ちぬはそれを解消する最後のチャンスではないか……という気がしないでもない」

「そのしこりは魔女宅の時まで遡りうるわけだね」

「事実かどうかは一切知らないよ。詳細も一切知らないよ」

「ならなぜ語る」

「だから気づいたことのメモさ」

風立ちぬ