「この映画は見なければならない、とオレのゴーストが囁くので見てきた。新宿の角川では今週の金曜日までしか上映していないので、1000円で見られる水曜日は今日が最後。しかも1日1回上映なので、その1回を逃すと見られない」
「それでどうだった?」
「ガラガラを予想したらとんでもない。小さなスクリーンとは言え、立ち見まで出ていた」
「えっ? 全席指定じゃないの?」
「全席指定らしいが、立ち見券もあったようだ」
客層 §
「客層は年齢が高めでしかも上品だった」
「普通のオタクではなく?」
「普通のオタクとは違う」
「ヤマト2199と比べるとどう?」
「ヤマト2199の客層よりも、もっと年齢が高くて、もっと上品に見えた」
「何が違うのだろう?」
「さあ。ただね。ヤマト2199には若干下品なカットがある。この映画には無かった。その差はあるだろうね」
「ひ~」
中2病 §
「FSSは昔1冊だけ買ってみたことがあるけど、凝った設定と綺麗な絵があるだけでさっぱり作品に入っていけなかった。血の通った人間を感じられなかった」
「それで?」
「だから、永野護という名前には何の思い入れもないし、とりたてて注目するということもなかった」
「なのに、なぜこの映画を見る気になったの? ゴーストの囁きは無しで」
「我が儘だなあ。理由は、トレイラーをネットで見たら血が通った人間に見えたから」
「それで?」
「相変わらず不必要に無駄に凝りすぎた設定の残骸は映画に引っかかっているものの、かなり後退していた。無視する気なら無視して見られるレベルだ。絵も綺麗だけど、主人公と相手役の顔が美形というよりも、むしろ愛嬌のある顔になっているのが良かった」
「美形じゃない方がいいの?」
「美形じゃ感情移入できないだろ? それに感情豊かに描くには美形ではない方が実はいい」
「ぎゃふん」
ロボット §
「結局巨大ロボット戦が行われてしまう」
「ロボットは嫌いなんだろう?」
「そうだ。ただし絶対に駄目とまでは言わない。それに意味があれば別だ」
「この映画は意味があったというの?」
「第三皇子のロボットにはな」
「どんな風に?」
「起動音が女の悲鳴に似ているから、それが第三皇子のある種の心理表現になっている。そして暴力の象徴でありながら主人公が魅入られてしまうところに意味がある。そのためには人型であることも意味がある」
「ふーん」
「ただ全般的に、これはロボットアニメのストーリーでは無い。そこがもっとも重要かな」
千年女王 §
「最後に、主人公に宿る過去の詩女が全員出てきて話すところは、まるで劇場版の1000年女王だね。歴代1000年女王が出てくる展開と似ている」
「おいおい。松本アニメを連想していいのかよ」
「そう思うと、冒頭に詩女が出てくるところ。あれは、歴代千年女王に見送られて1000年女王が宇宙に行くところにも似ている。それから、最後に憧れの相手が宇宙に消えていく結末も劇場版1000年女王に似ている」
「えー」
「久しぶりに劇場版1000年女王を思い出せたぜ」
第3皇子 §
「第3皇子だね。あれが実はけっこう良い奴なんだよ。有能でもある。怯える若い兵士の気持を落ち着かせたり気の利いたこともする。でもいちばん良いのはロボットに乗る前に生身のまま小動物をきちんと助けることだ」
「ロボットに乗る前に小動物を助けるのがポイント?」
「違う。ロボットはどうでもいいの。小動物が重要」
「ぎゃふん」
「第3皇子は小動物にお菓子もくれるし、いい奴だよ」
「ひ~」
まとめ §
「まとめてくれよ」
「中2病っぽい要素の残りカスがあるが、それを含めてもとても良い映画だ」
「残りカスってなに?」
「超設定の多くはこの映画に必要だったとは思えない。特殊な人間の設定、複雑な専門用語、現実離れしたテクノロジーと宇宙国家の設定などだな」
「それらは無くても良かった、ということだね」
「物語作りに力があれば、そういう超設定抜きで同じようなお話しは作れそうだ」
「それで話は終わり?」
「いや。実は、そういったカスをそぎ落としたら、もしかしたら化けるかも知れないと思った。今のままで既に凄いが、もっと凄くなる。その場合の作品の水準は並のアニメとは別の次元まで行ってしまいそうな気がする」
「その水準ってどんな水準?」
「血の通った人間を美意識を持って描けるなら、どこまで行けるか限界は見えない」
「じゃあ君の感想は?」
「複雑な設定は一切スルーして理解しなかったし、あの映画から分かるわけも無いし、あとから調べる気も無いが、それを踏まえても十分すぎるほど面白い映画であった」