レッドサン ブラッククロス3巻p101~102より
「主計士官」
砲術士は苦しげな息をしつつ尋ねた。顔面が血と煙で汚れているため、目だけが異様に輝いて見えた。
「<穂高>は逃げているのか?」
「いいや」と清水は首を横に振った。
「逃げているんじゃない。あくまでも戦術運動だ」
実際のところ、清水には艦の右舷への変針の意味が良く分かっていなかった。
「そうか」それを聞いた砲術士は安心した色を浮かべた。「そうだよな。<穂高>が逃げたりなんかする筈がない」
「そうだよ」清水は砲術士ではなく、自分自身を騙すように言った。
「日本の戦艦は絶対に逃げない。本当の戦いはこれからさ。いつだって、浮かべる城ぞ頼みなる、なんだから。そうだろう?」
「うん」
砲術士は子供の様な声で頷くと、瞼を閉じ、意識を失った。彼が再び目覚める事は無かった。医官による処置を受ける前に血を失いすぎていたのだった。
背後から水兵達の上げる大声が聞こえた。
「なんじゃあ、ありゃ」
何事かと思った清水は後ろを振り向き、開口部へと視線を向けた。そこから見える光景に呆然とする。
<比叡>の艦首が、あり得ない角度で海上に突き出されており、海面へ次々と人間をこぼしながら、急速に海中へ没しようとしていた。少なくともこの瞬間の<穂高>は、逃げようとしていたのでは無かった。轟沈しつつある<比叡>との衝突を避けようとしていたのだ。
「莫迦野郎」
清水は誰に対するでもなく、乾いた声で呟いた。莫迦野郎。派手すぎるぞ。E・E・スミスの与太話みたいだ。畜生。オレは、スペース・オペラは大嫌いなんだ。
「第11話のドメル艦隊。ガミラス艦が一隻撃破されて、艦首を真上に上げる。そして、後続艦がそれを避けるために変針している。このシーンはBD1巻のスリーブの構図であると同時に、この小説のこの部分を連想させたよ」
「なるほど。艦首をあり得ない角度で突き出して轟沈する僚艦と回避する自艦だね」
「それだけじゃない」
「えっ?」
「ヤマト2199そのものが、派手すぎるスペース・オペラなんだよ」
「ぎゃふん」
ミス §
「E・E・スミスの与太話ってなに?」
「レンズマンとかスカイラーク」
「お勧め?」
「君が14歳なら」
「中二病御用達かよ」
「リアル中二は病気じゃないのでオッケーだ」
「君はどうなんだよ」
「オレか? グレーレンズマンは14歳で読んだな。レンズマンは14歳の時に読むと良いとされる。スカイラークは15歳になってから読んだと思うけど」
「グレートレンズマン?」
「お約束をどうも」