魔球投手は卒業後に歯科医になった。
そして、彼のことは母校では魔球の伝説として語り継がれることになった。
ある日、昔の仲間が歯科医を訪れた。
「どうしても負けられない草野球の試合がある。魔球を投げてくれ」
しかし、歯科医は首を縦に振らなかった。「伝説は伝説のままにしておく方が良い」
昔の仲間は、あの魔球はトリックではないかと疑った。そこで、強引に魔球を投げざるを得ない状況を作り出した。
歯科医は魔球を投げた。
トリックなどどこにもなかった。
魔球は実在したのだ。
しかし、歯科医は「ズルがばれてしまったね」と悪魔の本性を見せて笑った。
(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)