「なぜフライト」
「下高井戸シネマで上映したので。ACE COMBATパイロットとして毎晩のようにフライト任務にいそしむ自分が、フライトという名前の映画を見過ごすことはできないので」
「えー」
「見たかったけど、ロードショー当時は見られなかった。なので下高井戸でリベンジだ」
感想 §
「どうだった?」
「意外と面白かったぞ」
「飛行機が出てくるから?」
「それもあるが、それは序盤の話だ」
「なんだよ」
「酒と麻薬と軽飛行機。特に麻薬」
「なぜ麻薬?」
「軽飛行機と結びついた時に理解できた……ような気がした」
「なんで麻薬と飛行機が結びつくんだよ」
「密輸業者は、南米から軽飛行機で麻薬を運んだんだよ」
「えー」
「つまりね。この映画の主人公は、麻薬の密輸に関わった家族のところに産まれて飛行機に親しんで軍隊から民間に行って機長になったわけだ。しかし、それは嘘に嘘を重ねて経歴を作る行為であり、酒浸りにもなる。従って彼は酒から離れられない。麻薬も必要だ」
「ひでえな」
「正直になれず後ろ向きだから息子にも嫌われる」
「それで?」
「だから正直に告白することで刑務所には入るが息子は嫌わなくなる」
なぜああいう飛行をしたのか §
「分かりにくいと言えば、墜落寸前になぜああいう飛行をしたのかも分かりにくい。ACE COMBATやるこんだ自分には現在の飛行機の状態が手に取るように分かったが、3次元的な意識が無い人は良く分からないかもしれない」
「具体的にどうしたわけ?」
「住宅地への不時着を回避するためにピッチダウンを続けることで、機首を下げていく。地面を通り越して背面飛行に入る。そこで180度ロールして正しい向きになる。そして翼を引っかけて不時着する」
「複雑だね」
「分からないという感想をネットに書いている人もいるよ。確かに分からない可能性はある」
「なぜ?」
「飛ぶとはそういうことなのだ」
なぜ麻薬なのか §
「つまり麻薬密輸もフライトなのだ」
「そうか」
「そして、麻薬をやって飛んでしまうこともフライトなのだ」
「えー」
「問題はさ。飛行機と酒と麻薬を同列に扱って良いのかだが、酔うという切り口で見ると、同列に扱って良いように思える」
「なんで?」
「飛ぶことにも酔うからだ」
「乗り物酔い?」
「そうじゃなくて飛ぶ快感に酔えるのだ」
「ひ~」
飛ばない軽飛行機は何か §
「結局飛ぶことがない軽飛行機」
「うん」
「あれはいったい何を象徴していたのだろうね」
「なに?」
「失われた夢のカケラかね。夢の中では飛ぶのだろう」