2013年06月29日
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創作メモ・魔女アーデラの事件簿・それはいかにしてファンタジーから推理ものに化けたのか

Written By: 遠野秋彦連絡先

 Amazonで魔女アーデラの事件簿が購入可能になっているので、若干の説明を語ろう。と言っても、本編の内容については語らない。そんな無粋なネタバレは誰も望まないだろう。

 さて、魔女アーデラの事件簿は、実は100%の新作というわけではない。

 この作品の元になる小説がもともと存在した。それが『ナンガニーラの魔法少女』だ。

 オタクがいるファンタジー世界で、アーデラという魔女が、マールというシーフと共に、アーサー王の依頼で盗難事件の調査に取りかかると言う内容であり、基本的なコンセプトは非常に似通っている。(しかし中身は全くの別物になっていて、ストーリー展開も結末も異なる。というか、『ナンガニーラの魔法使い』に結末は存在しない。一応終わっていたのだが、ちょっとだけリアクションが良かったので続きを書いて完結できなかったわけだ。

 今回は、そのリベンジマッチということになる。

 従って、今は全く趣味ではないファンタジー世界の小説となっている。ただし、読めば分かるが、今回はリライトの時に現実世界にぐっと近づける仕掛けを入れてある。

 さて、ファンタジーである。

 ファンタジーといっても本物ではない。

 ドラクエやFFが切り開いた、ゲーム的なファンタジー風の世界であるが、それはそれで狙ったものだ。このドラマは現実世界の一部で発生した事件を描くわけで、本物のファンタジーはどう見ても現実世界の一部ではないが、ゲームの似非ファンタジーは現実の一部だからだ。

 では、現実に包含される似非ファンタジーだとすると、どんな意味があるのだろうか。

 そこで発生する事件は、逆説的に非常にリアリティが高いものになる。

 つまり、以下は発生しない。というか、発生してもドラマにならない。ゲームとして制御されたイベントだからである。

  • モンスターを倒す
  • 悪を倒す
  • グループを結成する
  • ダンジョンを探索する
  • アイテムを手に入れる

 一方で、以下は大きな意味を持ちドラマになる。ゲームとして制御されたことではないからである。

  • 盗難
  • プレイヤーの嘘
  • 殺人 (PK)
  • パワーレベリング
  • GMコール
  • キャラクターのロスト

 魔女アーデラの事件簿は、後者のグループの話題がメインになって進行する。つまり、本物のファンタジーとはやや異なる領域の話題を扱う。これは意図的なものだ。

 従って、現実世界の普通の推理ものと比較しても、読み応えが劣るものを意図はしていない。

アーサー王 §

 以下の設定は、イーネマス!と非常に酷似している。

  • オタク族という人たちがファンタジー世界にいる
  • アーサー王という王様がいる
  • オタク族は既に死んでいるが仮想世界で生き続けている

 それには正当な理由がある。

 実は、イーネマス!とは、ナンガニーラの魔法少女の前提が成立するための話として当初想定されたものだ。だから、ナンガニーラの魔法少女で脇役だったアーサー王がアーサーを名乗り王様になるまでを描くものになるはずだった。

 しかし、それだけでは面白くないので、ナンガニーラではなく、イーネマスという世界を創造することにより、全くの別作品に化けてしまった。ただし、それでも一部の設定は生きているので、ナンガニーラの魔法少女と似ている部分が残る。

 今回、ナンガニーラの魔法少女をリライトしたときに基本設定を変更しないという選択を選んだので、結果として似ている部分が残ってしまった。

 しかし、魔女アーデラの事件簿のアーサー王、オタクゴーストと、イーネマスのアーサー王、オタク族は全くの別物である。それらは作品が持つテーマ的な要請に従い、別のものとして登場する。

盗難品の変更の問題 §

 ナンガニーラの魔法少女は、某アニメのLD-BOXが王宮から盗難される。しかし、魔女アーデラの事件簿では王宮から人気キャラの等身大フィギュアが盗難される。

 この変更はなぜ行われ、なぜそうなっているのだろうか。

 ナンガニーラの魔法少女は、LDプレイヤーがほとんど存在しない世界でLD-BOXを盗む意味がほとんど無い。最終的にオチで、昔のアニメ雑誌の学習マンガにあった「勘違いしたLDの再生方法」をオチとして付けることで成立していたが、今どきの読者がそれを知っているわけはないし、そもそもLDが分からないだろう。

 それに対して、等身大フィギュアであれば、偏執的な愛の対象として技術の有無は関係なく盗み出す価値がある。それに『等身大の人形』というコンセプトそのものは昔からあり、陳腐にならない。長持ちすると言い換えても良い。

 そして、それは物語に深みも与えてくれた。

 能動的に動く人形は、それ自身がアイテムではなくキャラクターになるのだ。

無敵戦士バリアーニの問題 §

 無敵戦士バリアーニは某ラノベの無敵戦士に似すぎていたので、徹底的に改変した。無敵である理由付けも作中で行った。同時に弱点も作った。

ヒーラーのクルーミの問題 §

 クルーミが男性恐怖症である理由付けも改めて行った。

 ついでに、クルーミが青色半魚人と性交する理由付けも行った。

 結果的に、クルーミは物語を引っかき回す特別な存在になることができ、これは成功だったと言える。

嘘の問題 §

 この作品は基本的にアーデラとマールのペアをマールの視点から描くものになっている。これは、ホームズとワトソンの物語を、ワトソンの視点から描くことに相当する。タイトルが語り手のマールではなくアーデラとなっているのも、タイトルが語り手のワトソンではなくホームズになっていることに相当する。

 しかしながら、アーデラはマールに嘘をついており、マールもアーデラの嘘を付いたまま物語が進行する。つまり、犯人対探偵という構造の他に、探偵側の2人もそれぞれ相棒の謎を解かねばならない制約を課せられる。つまり相棒を信用はできない。

 これは分かりやすい単純な物語を否定するために導入されたトリックである。なぜそのようなトリックが導入されねばならないのかといえば、現実の世界がそうである以上、物語にリアリティを持たせるにはそれが必要だと考えられたからだ。

主人公は失敗する §

 最近ネットで、ラノベの読者は主人公が失敗するドラマを読みたがらない、という記述を見たが、魔女アーデラの事件簿は主人公が失敗する。そのような意味で、主人公が失敗するドラマは読みたくない人にはお勧めしない。まあ、最初から避けて通るだろうとは思うけれど……。

 では、なぜ主人公は失敗するのだろうか。

 その方が面白いからだ。

 主人公が失敗するということは、主人公に感情移入した読者も失敗したことになり、これはミスリードの森に読者は誘い込まれたことを意味する。あるいは、主人公の失敗をもしかしたら漠然と予感して、ハラハラ読める可能性もある。その場合は、どこで主人公が失敗するか分からないという意味で刺激がある。そして、失敗を乗り越えて主人公は強くなれる。

 そういうドラマの方が面白いと思うので、魔女アーデラの事件簿はそのような構造になっている。

生と死の問題 §

 魔女アーデラの事件簿は生と死の物語と言える。

 なぜなら、妊娠が問題にされる部分と、死が問題にされる部分を含むからだ。この物語は死と妊娠を含むが、実は「間違った死」と「間違った妊娠」ということになる。しかし、本当にその死は間違っているか、本当のその妊娠は間違っているかは、読者が考える問題とも言える。解釈は強制されない。

元ネタの問題 §

 中華料理屋の看板娘という設定のメイメイというキャラクター。海の真ん中の小島に仮名ハウスを構えて住んでいる仮名仙人。これらには全て元ネタが存在するのだが、読者は別に知らなくても構わない。仮名ハウスにいるランチンの元ネタは、分かる人は分かるだろうが、分かることは何ら必須の要請ではない。物語を楽しむために必要な情報は全て物語に書き込まれている。元ネタ探しをする必要は無い。ボヨヨン・コイルや、J・ムス教授の元ネタは、たぶんそこそこマニアックなオタクでも分からないだろうが、分からなくて良い。分かる必要はない要素として書かれているからだ。

 ちなみに、J・ムス教授の奥さんの名前はモー・ムスということになっているが、別にその意味が分かる必要はない。

 ノルマンが住んでいるキイガン城も、ルパン三世を全部見ている程度の普通のオタクには歯が立たない元ネタだろうが、もちろん分かる必要はない。読者に分かって頂く前提では書かれていない。分かったところで、何もメリットはない。単に名前がそれっぽいだけのことである。中身は別物である。

 ただし、魔女アーデラの事件簿を10回以上読んでダイスキという読者は、少し考えてみると面白いかも知れないが、それはそれである。普通の読者は意識する必要はない。

まとめ §

 脈絡もなく書いてみたが、言いたいのは要約すれば、

「読むに値しない水準の過去の原稿を叩き直し、少しは読めるようにしました。どうぞ、お読み下さい」

 ということだ。

 ちなみに、まだ他にはまだリライトを待っているものもあるので、それも決着を付けたい。全部決着が着けば、今本当に書きたいものを書いていけるだろう。

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