「晩夏のヤマトイベントの嵐はこれにて終了だ。今後は平常運転に戻る」
「今日はなに?」
「一龍斎春水さん独演会だ」
「誰だ?」
「初代森雪の声優の人だ。麻上洋子だった人だ」
「2199じゃないのか」
「全く関係ない」
「満足は行ったかい?」
「行ったぞ。わずか数メートル先に本人がいて、マイクを通さない肉声で『古代君が死んじゃう』と言ったのだ。これに感涙しなくて何に感涙するのだ」
「でも、過去の人だろう?」
「ヤマトでは今の森雪を演じていないという意味で過去の人にあたるが、現在進行形の講談師なのだから、過去とも言い切れない」
「講談なのかい?」
「そうだな」
「講談ならやっぱり古いのではないか?」
「講談でヤマトやったら、それも古いと言えるのかい? 時に西暦2199年……の話だぞ」
「えーと……」
ファンの気質 §
「久々に本当にコアなファンを見た気がするな」
「コアなファンとは」
「本当にコアなファンだよ」
「本当にコアなファンとは?」
「だからね。ブームの有無に左右されずに趣味を貫徹する人たち。ヤマト2199が出てきたから騒ぐ人たちでは無い」
「具体的に教えてくれよ」
「そうだな。開場前に周囲から聞こえてきた話題は、ハーロック。千年女王を語ってる人の声も聞こえてきた」
「まていっ! ヤマトじゃないのかっ!」
「時期的に、ハーロックの映画公開直後なので、ハーロックの話題が出るのはある意味で仕方が無いことだろう」
「それじゃ、2199とは別の世界だよ」
「そうだよ。別の世界と思ってもいい。でも、春水さんが森雪の台詞をやれば大拍手なので、みんなヤマトファンであることは確かだろう」
「でも、2199ファンとは異質なのだね?」
「たぶんね。春水さんさんが14万8千光年と言った時に誰も訂正を求めない世界だ」
「そういう世界に入り込んで君は満足かい?」
「入り込んだというよりも溶け込んで混ざった感じだよな」
「ひ~」
ヤマト講談 §
「ヤマトが講談だよ。凄いな。分かっているはずのお話なのに、ノリがまるで違うだけで別物に生まれ変わる。あれは1回聞くと世界観が変わるよ」
「そんなにいいもの?」
「講談の固定ファンには通じないみたいだけどな。ヤマト知らないから」
「えー」
春水さんの気質 §
「1つ分かったことがある」
「なんだい?」
「春水さんとは、根っこのところで似ている部分があるようだ」
- 学校では放送室に入り浸った
- 両国で邂逅した
- 戦争に反対する
「意味が分からない。放送室がどうしたんだ?」
「おいらは、中学時代の2年半は放送委員で放送委員長までやったからな」
「それにどんな意味があるんだ?」
「組織の一般構成メンバーから逸脱して別の視点を持たざるを得ない」
「なんで?」
「放送室は情報の発信源なのだ。特別な場所なのだ」
「発信者と受信者は立場が違うわけだね」
「そうだ」
「じゃあ、両国って?」
「両国には江戸東京博物館があるし、他の用事もあって何回も来ている。旧安田邸庭園も行った。そういう意味で庭だ。その庭で独演会が行われた。これは意味ありげだ。意味は無いかも知れないけど」
「ひ~」
「それから戦争についてはね。講談で火垂るの墓をやったのだけど、結局その真の意味は何かと言えば、戦争なんて下らないからやっちゃダメということだ。それを表現するための寓話として火垂るの墓があるわけだ」
「そういえば、君も戦争には反対だね」
「そうさ。右翼だろうと左翼だろうと戦争をやりたがる奴等は全員自分の敵になると思え。いかなる正義を語ろうとも敵になると思え」
「つまり、正義の戦争より不正義の平和の方がいいわけだね?」
「そのフレーズの意味は、全く理解されずに間違った使い方をされがちだけどな」
「ぎゃふん」
「そういう観点から言えば、泥棒して、ボコボコにされて、栄養失調で妹を死なせて、自分も死んでしまう話は悪くないのだろう」
「どういう意味?」
「戦争をやるということは、おまえの子供が泥棒して、ボコボコにされて、栄養失調で妹を死なせて、子供も死んでしまうかもしれないってことだぞ、というメッセージだ。そうまでして戦争をやりたいのかってことだよ。そこまでの覚悟があって『正義のために悪なるXX国を撃て』という主張に賛同しているのか、ということだ」
「なぜ春水さんは、そういう『間違った正義』に味方しないと思う?」
「実はね。講談とは古い話がメインなのだ。話が古いから戦争は抽象化され、相対化される。そこでは善悪が完全なものではなくなる。徳川家康が常に悪役とは限らない。しかし、あくまで古い話だ。そこにヤマト講談という未来の話が加わると時代が抽象化されて時代に関係無い戦争の本質が浮かび上がる。火垂るの墓も同じことだ。これも扱うことによって、世界観が時代に対して中立になる。従って、相対化された戦争観が現代にも適用可能になり、そこにあるのは『正義のための戦争』ではなく、『正義のための戦争と称する不正義の戦争』でしかないことが見えてしまう。つまり、あらゆる損失を正当化するような理想、戦争を通じて実現すべき理想など存在しないことが明らかになってしまうのだよ」
「本当にそうなのか?」
「知らん。単に自分が思ったことを言っただけだ」
「じゃあ、講談でもいいの?」
「いいよ。というか、悪いなんて、もともと思っていない。普段は聞かないだけ」
つまりは…… §
「ヤマトの底をまた踏み抜いた気がするな」
「えー」
「より厳密に言えば、ヤマトを踏まえて我々はどこに行くべきか。永遠にヤマトの3文字を繰り返すだけでは時間という意識が無い。進歩という概念も無い。あり得ないと思ったヤマト復活があったという事件は確かに事件だが、それはマイルストーンでしか無い。問題は、ヤマトの先に何を描くのかだ」
「何を描けばいいわけ?」
「それは人それぞれだろう。春水さんは講談という世界を描いた」
「君は?」
「郷土史という歴史観の世界を描いているわけだ」
「結局どちらも過去という方向性を描いているわけだね」
「もちろん、それが唯一の方向性というわけでは無いよ。別の方向性を描いても良い」
「でも君と春水さんは似た方向を向いた。なぜ?」
「おそらく世界認識の拡大は過去に広げるしか無いからだ」
「なんで?」
「世界認識は空間的に拡大できない。普段行動する範囲は限定的だし、そもそも地球の外には実質的に行けない。時間的な未来もやはり行けない世界だ」
「タイムマシンが無いから?」
「いいや、未来は未知で不確定だからね。タイムマシンで見てきた未来が本当に到来する保証なんてない」
「そうか。過去なら既に確定しているから過去に向かうことだけは可能なんだ」
「そうだ。情報がある限り過去に向かって進むことはできる」
「古代に向かって進む?」
「いや、それは違うから。古代に向かって守るわけでも無いのだ」
DORO☆OFF EXHIBITION III §
「実は浅草橋でDORO☆OFF EXHIBITION IIIという模型の展示会があったのだが、両国とは目と鼻の先なので寄ってみた」
「どうだった?」
「面白かったぞ」
「どこが?」
「まず、自分も名前を知っているちょうぎさんの作品が含まれていたのだが、ちょうぎさんのポルメリア級にはやられたな。あれは上手い」
「他にも良さそうな作品が多かったのでは?」
「うん。良い作品は多かったが、ポルメリア級は自分も作っているから印象が違うのだ」
「単に上手いだけで無く、自分の作品と比較可能なのだね」
「そうだ」
「どこが違ったの?」
「自分は下面を何もいじらなかった。キットそのまま。塗ってすらいない。普通に展示すると見えなくなってしまうし、キットのままでも十分に格好良かったからだ」
「でも、ちょうぎさんのポルメリア級は下面を凝ったわけ?」
「そうだ。下面が見えるような展示方法さえ取れば、見えなくなってしまうことは回避できる」
「えー」
「そういう観点で下面を凝ると、こういう素晴らしい作品もありだと分かった」
「アイデアの問題?」
「違う。上手さの問題。下面を見せる展示というアイデアだけなら他にそのような作例がある」
ヤマト §
「SW系とかバトルスター・ペガサスとか他にも凄いものがあるが、ここの読者はヤマトファンばかりだから、ヤマトの話に絞る。ヤマト系もけっこうあったよ。地球艦もガミラス艦も」
「ヤマトは流行り物?」
「かもね」
電飾タイム §
「実は何回か電飾タイムという時間があるので、わざわざそれに合わせて行ったのだ」
「それで?」
「電飾タイムに突入して分かったことは以下の通りだ。
- 電飾を仕込んでいない模型は事実上の退場
- 模型制作の上手さと電飾の上手さは全く別
- 上手い下手が露骨に出る。照明を落とすと1つの世界を作ってしまう模型と、単に光っているだけの模型がある
- 自前のライトで照らしているような模型も、電飾タイムに対する意識は高い (自前のライトが無いと意識が低いという意味では無い。良いものはライト抜きでも良い)
「つまりなんだい?」
「おいらは、子供の頃に電飾マニアであったが、今は電飾やらないってことだ」
「つまり、単に光源を仕込むレベルの電飾ならやる意味が無いってことだね。でも、それなら電飾で違う世界を作るような模型なら作っても良いのでは?」
「電池を入れるための蓋に隙間が出来やすいからヤダ」
「えー」
まあそれはそれとして §
「1/72のコスモゼロの計器板が光っている作例とか、艦名が自艦のライトで照らし出されているきりしまとか、本当に細かいよ。良く作ると感心する」
「あんな子が欲しいのか?」
「いや別に欲しくない。磯丸水産で『電飾タイムお願いします』と言ったら照明が落ちるわけでも無いし」
「磯丸水産って何だよ」
「新宿ピカデリー裏にあって、ヤマトモデラーと模型を肴にビール飲んだ店」
「そんなの知らないよっ!」
オマケ §
「あんな子が欲しいのか?」
「要らない。それゲールの台詞では無く、ランバ・ラルの台詞だから!」
「次に会ったらこうは行かないぞ古代君」