2013年09月19日
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三百字小説『思想の失踪』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 世界から思想が消えた。

 愚劣な人間に愛想を尽かして思想は全て失踪してしまったのだ。

 おかげで、社会から思想という思想が消えた。民主主義も消えた。法律の機能しなくなった、法治国家という思想そのものが消えたからだ。それどころは、国家すら消えた。誰も国家を信じなくなったからだ。

 そういう中で、暴力だけで成り上がった帝王がいた。

 戴冠式の日に暴力王は宣言した。

 「暴力だけがこの世を支配する唯一のルールである。それは現実であり私の信念だ。思想と言ってもいい」

 その瞬間、暴力による絶対支配は思想に昇華され、やはりこの思想も失踪した。

 できたばかりの王朝はあっさり崩壊した。

(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)

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