2013年10月31日
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三百字小説『ミルクのみ人形』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 「ミルクのみ人形はいらんかねー」

 ……と白い人形を並べて売っている露天商がいた。

 女の子のご機嫌を取らねばならない私は1つ買っていくことにした。けっこう良い値段だった。

 「ほらミルクのみ人形だよ」

 私は訪問先の娘に人形を与えた。

 心象が良くなかったのか、親との商談は上手く進んだ。

 しかし突然女の子が叫んだ。

 「この人形ミルク飲まない!」

 急に心象を悪くしたので、商談は破談になった。

 怒り心頭で露天商に文句を言いに行った。

 「ミルク100%で出来ていますから。嘘偽りありません」

 「ミルクは液体だぞ」

 「ほら、こうして暖めると固まりますから……」

 固めたミルクのみで作られた人形、略してミルクのみ人形……。

(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦