2014年03月21日
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空想地図問題は新しいか古いか

Written By: 川俣 晶連絡先

「今になって空想地図問題ってものが出てくるとは思わなかったよ」

「なんで?」

「【地理情報プログラミングの基本と応用】を持っている人は15ページを見てくれ。はっきりと、【現実世界で建設予定の道路(つまり虚構)】と、【虚構世界に実在すると設定されている道路】の比較の話が書いてあるだろう? 後者は紛れもなく空想地図のことを示している」

「空想地図は有益ではないわけだね?」

「フィールドワークする者にとってはな。あくまで地図とは目の前の光景を解釈する補助線なのだ」

「では空想地図というものは否定されるべきものなんだね?」

「そこまた微妙だ」

「なぜだよ」

「実は、子供の頃に空想地図は山ほど描いているからだ」

「ひ~」

「実在の地図に架空の鉄道路線を引いたものもあれば、完全に架空の地図もある」

「それは君のオリジナルかい?」

「そうとも言えない。鉄道模型には、自分の模型鉄道が実在していたら……という観点で妄想することはあり得て、その一部を切り取ってレイアウトとして成立させることもある。あるいはレイアウトが成立するためにそれが必要とされるケースもある」

「つまり、空想地図はぜんぜん新しくないってこと?」

「そうそう。これは全く古い問題。昔から架空世界の架空の地図はあるのだ。バルスームとか」

「バスルーム?」

「バルスームだよ。火星だよ」

「ひ~」

「問題はどこにあるのかといえば、空想地図の長所と短所は割と明瞭に出てくることだ」

「長所? どこに長所があるの?」

「現実の特徴がデフォルメされて析出する。より分かりやすい感じで現実の普遍的な特徴が再現されやすい」

「じゃあ短所は?」

「デフォルメ表現なので現実と一致しない、つまり直接的な実用性が無い」

「じゃあ、話はそれでオシマイ?」

「いいや。実は空想地図を虚構ではなくデフォルメ表現だとすると、実はデフォルメ地図はいくらでも存在するのだ」

「それだけ空想地図が多いってこと?」

「いいや。非空想地図でもデフォルメ地図は多い。たとえば、測量技術が入る前の江戸時代かそれ以前の地図は全てデフォルメ地図だ。鉄道の沿線案内地図もたいていデフォルメ地図だ」

「え~」

「だからさ。空想地図と現実の縮尺地図の中間に、非空想デフォルメ地図の世界があるわけだが、これの実用性は非常に微妙だ。読み取れる情報は読み取れるのだが、読み取れない情報は読み取れない」

「下高井戸駅近くに吉田園があることは分かっても個々の施設の位置関係は分からない訳だね」

「それでいいのか、という点は非常に難しい」

「そうか」

「しかし、この考えは更に延長するともっと怖いぞ」

「というと?」

「【地理情報プログラミングの基本と応用】でも書いたが、実は地球は平面では無い。平面では無い地球を平面の地図にマッピングすると歪む。僕の街の地図ならあまり問題にならないが、世界地図では大問題だ。だから、その時点で既にデフォルメ地図にならざるを得ない。それはありのままの現実と言って良いのか。あるいは現実のデフォルメなのか」

「分かった。そういう世界に生きていると、空想地図の世界にまでは行けないわけだね」

「行く意味も無いわけだがな」

「意味が無い?」

「古地図見るだけで、既に空想地図とほぼ同じ世界にいる。しかも、【僕】の空想は誰かと互換性があるとは限らないが、古地図は互換性がある。誰が見ても同じ地図は同じ地図だ」

「ひ~」

もっとも §

「もっとも、淫欲少女抄シリーズの18禁同人ソフトシリーズの世界は空想地図そのものだけどな」

「どんな風に?」

「架空私鉄沿線の努町というベッドタウンがあり、私鉄に乗ると株喜町という新宿モドキの場所に行ける。逆に乗ると江ノ浜という江ノ島なのか横浜なのか分からない海に出る。ちなみに、江ノ浜にはイッチャイナタウンがあって、チャイナ服が買える」

「そのゲームのメインは18禁なのかい? ギャグなのかい?」

「うーん、ギャグかもしれない」

「なるほど」

「一方で、同じANGFで駆動されているにも関わらず推理ゲームの【1980オタクのヒデオ】は空想地図になっていない。現実の地名で移動するようになっている。一応、全国の全駅名が収録されている」

「なぜその差があるんだい? やはり実在の地名をギャグにすると失礼だからか?」

「いや、【1980オタクのヒデオ】もギャグ多いよ。江戸川に行くと会えるおっさん(昔ボート漕いでた)は『江戸川困難、短艇さ』って言うし」

「そのゲームのメインは推理なのかい? ギャグなのかい?」

「うーん、ギャグかもしれない」

「そっちもかい。じゃあなんで差が出るわけだ?」

「差ね。それは笑いの取り方の差かな」

「どこが違うんだ?」

「前者は【高原のポニー駅】にC56が展示してあるという分かる人にしか分からないお笑い要素が入っているが、プレイアビリティの都合上、遠い場所であっては困るのだ」

「距離のデフォルメが必要ってことだね」

「一方で、後者は行きたい場所が何線のどこ駅かゲーム外で調べることもゲーム要素として想定されている」

「ゲーム外で調べるなら、現実と一致していないと困るわけだね」

「まあそういうことだな。もっとも、それなりのデフォルメは入っているが」

「デフォルメってなに?」

「全ての駅の緯度経度はリアルの情報で管理されているが中間は再現されていない。駅と駅は全て直線距離で移動時間とコストを計算してしまっている。そもそも運賃の計算ルールからして嘘ルールだしな」

「それは……デフォルメだね」

「でも、日本全国の運賃体系までリアルに再現は無理。実現しても実現したその日からどこかで運賃改定されてかけ離れていくから無駄」

まとめ §

「で、空想地図問題についての結論は?」

「特にない」

「は?」

「やりたい人はやれば良い。それが面白いことは分かる。自分も描いた」

「中立?」

「そう。別に素晴らしいからやろうとも推奨しない。やるなとも言わない。ただ紛らわしいことだけはやってくれるなと思う」

「紛らわしいことをするとどうなるわけ?」

「郷土史上の大発見だと思って裏付けを取ろうとすると何も出てこないことになる。徒労だ」

「ひぇ~」

「だから、上高井戸と下高井戸の間にある中高井戸の地図は空想しないでくれ。それは昔あった実在の地名だから。検索すると混同するから」

「そこは切実だね」

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