2014年07月23日
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三百字小説『思想の疾走』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 走れ思想。友のために。

 彼が戻らないと友は死んでしまうのだ。

 走れメロスのように。

 思想は要するに物の考え方で抽象的な存在だった。しかし友を思う気持ちは本物だった。

 「思想よ、そなた抽象的な概念の分際で友を救うというのか」

 「ははっ。私の思想は【友を大事に】でございます。何より友のために身体を張ります」

 「なら走ってこい。指定の時刻までに戻らないと友の首を切るぞ」

 走れ思想。友のために。

 走れメロスのように。

 「よく考えたら僕には走る足は無かったよ。てへっ」

 友は首を切られた。

(遠野秋彦・作 ©2014 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦