「この本はなんだい?」
「宇宙戦艦ヤマトとその時代背景を検証する、歴史検証本だな。だからアニメの本ではなく歴史の本だと思っておけば良い」
「宇宙戦艦ヤマトの華々しい戦いや、古代進の華々しい活躍は?」
「一切無い」
「じゃあ何が出てくるわけ?」
「たとえば、水爆実験や大阪万博やノストラダムスだな」
「ヤマトと関係ないよ」
「しかし、ヤマトが産まれてくる時代背景ではあるのだ」
「なんで?」
「水爆実験は人類滅亡と直結するし、大阪万博は夢のような未来が崩壊するビジョンの直結する。ノストラダムスも滅びを予言したとされ、一時期はブームになった」
「滅んでないじゃん」
「人類滅亡と言われた1999年は、1970年代から見れば未知の未来なのだ。滅ばなかった事実を知っている21世紀の我々の感覚では語れない領域なのだ」
「でも、そんな昔の感覚を要求していいわけ? 分かりにくくない?」
「歴史を語るというのは、そういうことだよ」
「アニメは語ってないわけだね」
「そうだ。おおむね昭和平成史のある種の側面を語っていると思って良いぞ」
「もっと分かりやすく言うと、どういうこと?」
「戦艦大和や長嶋茂雄の存在感が、アニメを凌駕する本だと思えば間違いないよ」
「つまり、アニメファンではなく歴史ファン向けの語り口だと言うことだね」
「アニメファンが読むことを想定してかなりかみ砕いて説明はしているけどね」
「しかし、テーマそのものはアニメに無いわけだね」
「そうだ」
まえがき §
本書は1970年代後期から1980年代初期に掛けてヒットし、21世紀に入って復活した宇宙戦艦ヤマトというアニメ作品を契機にその時代について俯瞰してみるという内容を取っている。主役は宇宙戦艦ヤマトではなく、その背景となった時代である。だから、世界最大の戦艦大和をモチーフにした宇宙戦艦の大活躍についての話を期待される方はここで回れ右をすることを強くお勧めする。主たるテーマは、宇宙戦艦ヤマトという作品が成立したこと、没落したこと、21世紀に入って復活したことが全て時代背景の必然であることを示すことだ。
従って、八八艦隊、ノストラダムス、アポロ計画、長嶋茂雄などの要素は詳しく取り上げられるが、宇宙戦艦ヤマトそのものはそれほど大きく扱われない。成立の背景を探るなら、対象そのものが産まれる前の状況がメインになるからだ。
本編を開始する前に以上の点を明確にしておく。
目次 §
- まえがき 1
- プロローグ 1
- 八八艦隊の亡霊編 7
- 宇宙戦艦ヤマトの元ネタ 7
- 軍縮条約と八八艦隊と戦艦大和の関係 9
- 八八艦隊の産まれたワケ 10
- 宇宙戦艦ヤマトにおける思想 12
- ドメル艦隊の秘密 13
- 三隻目を探せ 15
- 円盤旗艦の問題 16
- 時代の背景 17
- 人類滅亡の幻想編 21
- 地球の危機という問題 21
- EXPO'70 21
- ノストラダムスの大予言 23
- ツァーリ・ボンバー 28
- 世界大戦争 31
- 一面の焼け野原 32
- 「母さんのだ!」 34
- 滅亡物語の変調【日本沈没】 36
- ノストラダムスの敗北 38
- ノストラおじさんの援軍 41
- 終わりなき日常をまったり過ごす幻想 47
- 科学冒険の宇宙編 48
- 歴史の前提・常識の前提 48
- アポロ計画陰謀論 50
- 人類が宇宙を最初に意識したのはいつか 52
- SFの始まり 53
- V2ロケット 54
- 宇宙開発競争と日本のSF 55
- アポロ宇宙船 57
- アニメの逆襲 58
- 生命維持度ゼロに挑戦せよ 59
- スカイラブ 61
- スペースシャトル 62
- その後の宇宙戦艦ヤマト 62
- 終了英雄の後継編 64
- 川上巨人奇跡のV9 64
- プロ野球が嫌われた理由 65
- プロ野球人気の終わりの始まり 67
- プロ野球の終焉と宇宙戦艦ヤマトの始まり 68
- 奇跡復活の平成編 69
- 復活しない復活篇 69
- 自信を喪失した日本人の問題 70
- 終わりなき日常の問題 74
- 安全神話の問題 77
- 311の問題 80
- 国際宇宙ステーション 81
- HLV 82
- なぜグリーゼ581なのか 83
- 新しいヒーロー像への期待 83
- ヤマト奇跡の復活の問題 87
- エピローグ 88
- 後書き 90