2014年10月19日
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郷土史的トライブクルクル(Tribe Cool Crew)問題とは何か

Written By: 川俣 晶連絡先

「最近見かけて引っかかったのは、【東京は東の京都に過ぎない】という言い方だ」

「東京という言葉は、東の京つまり京都ではないの?」

「そのような意図のネーミングだったとしても、実態はそんなものではない。東京という言葉が悪ければ、関東圏あるいは江戸には京都とは違う歴史が存在すると言い直しても良い。しかし、京都中心史観ではそれが否定される」

「なぜ?」

「京都の政権によって占領されて日本に併合された土地なので、京都の政権が支配する正当性に疑問符が付いてはまずいからだ。だから、無かったことにされやすい」

「家康が来るまで江戸には何も無かった、という嘘八百がまかり通るわけだね」

「すぐに嘘だとばれるような嘘だが、それでも信じ込んでいる人は多い」

「なんで?」

「その方が都合が良いからだ」

「典型的なご都合主義って奴だね」

「さて、それはさておき、日曜朝7時に、2014年10月からトライブクルクル(Tribe Cool Crew)というアニメが放送されている」

「なぜ、そんな話が突然この場に出てくる。どこが郷土史と関係するのだよ」

「郷土歴史記念館が出てくるからだ。しかも、単に出てくるだけではない。主人公とヒロインがダンスの練習をする場所を提供するという重要な役柄で頻繁に出てくる」

「なぜだ」

「受付のおじさんがいい人で、しかも人が来ない場所だからだ」

「それだけか」

「いやいや。主人公とヒロインが出会うという重要な役割を持たされた場所なのだよ」

「しかし、単に場所を提供するだけならどこでもいいじゃないか。郷土歴史記念館である意味が無い」

「そうじゃない」

「えっ?」

「トライブクルクル(Tribe Cool Crew)というタイトルのトライブは【種族】という意味なのだ。主人公のライバルダンスチームはトライバルソウルという名前で【種族の魂】となる」

「種族ってなんだ?」

「生物学的な種族のことではあるまい。ならば、実質的には【民族】だ。これを【民俗】と捉え直せば、【郷土歴史記念館】に直結する概念となる」

「いやいや。それが事実なら凄いことだが、それだけではまだ弱いだろう」

「実は発見してしまったのだよ」

「何を?」

「第1話の冒頭は逆さまの日本だった。そこからアニメがスタートする」

「逆さまの日本?」

「確か、昔見た網野善彦の本に載っていた。この人も、京都中心の史観に異議を唱える人だった」

「えっ? 話がそこにつながるの?」

「そもそも、郷土歴史記念館という概念そのものが京都中心の史観に異議を唱える存在だ」

「京都ではなく、その土地に根ざした歴史を扱うってことだね」

「そうだ。上北沢と下北沢を比較して、上北沢の方が京都に近いから偉いとは考えない世界だ」

「でもさ。結局西洋風のダンスアニメだろう? そんな民俗とか郷土とか言いだしても意味が無いじゃないか」

「いや、そこは逆なんだよ」

「は?」

「今の日本の国家的伝統文化は基本的に京都発なんだよ。当然、それを否定するなれば、それらの文化は消失する」

「でも、それを消したら何も残らないよ」

「そうだ。京都文化は圧倒的に強く、日本中を席巻してしまった。それ以前の文化は残りカスのようなレベルでしか残存していない」

「では、どうしようもないのか」

「いやいや。より原始的なリズムを基にした本能的な原始音楽世界を想定することはできる。おそらく縄文ぐらいの時代は、洗練された音楽などなく、原始的なリズムの世界であっただろう……という想定は可能であり、音に合わせて踊ることも行われていただろう」

「いったい何が言いたいんだい?」

「だからさ。シンプルなリズムに会わせて踊ることが前提になったストリートダンスの世界には、本来の原始的な民族性の復権が含まれるのかも知れないってことだよ。京都中心史観を排除したあとで見えてくる世界がね」

「それって事実なのかい?」

「さあ。単なる思い付きのメモ」

「それにしては興奮しているね」

「逆さまの日本とは重要な記号だったからね」

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