2015年01月02日
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映画「トコリの橋」に見る昭和29年の日本

Written By: 川俣 晶連絡先

「最近思うのだが、昭和10年代~20年代が特に歴史のブラックホール化している」

「なぜ?」

「戦時下と戦後の混乱期だからだろう。記録はあるが実像はぼやける。この時代の地図は戦時改描されたり、もっと古い時代の地図を手直ししているだけだったりするからだ」

「救いは無いの?」

「米軍撮影の航空写真が救いと言えば救い。あれは昭和22年頃の現実の日本を高空から写している」

「それだけ?」

「うん。実は映画【トコリの橋】が凄く面白いことに気づいた」

「映画【トコリの橋】とは?」

「朝鮮戦争を題材にした1954年(昭和29年)の映画なのだ」

「朝鮮では日本ではない」

「いやいや。実は朝鮮戦争の米空母は実は日本を基地にして活動していた。だから、物語の前半は日本が舞台なのだ」

「えー」

「朝鮮戦争は後方の策源地は攻撃しない限定戦争だったので日本が攻撃されることはなかったが、事実上日本は交戦当事国。映画コクリコ坂でメルの父親が死んだというLSTもトコリの橋に出てくるぞ。救助ヘリが発進する船はLSTだ」

「それで、それが言いたいわけ?」

「そうではないぞ」

昭和29年の日本描写 §

「この映画の日本はケバケバしくて少しおかしい」

「日本ロケしてないの?」

「大々的に日本でロケしたらしい。ただし、ヒロインは日本に来ていないので、彼女が出ているところはセットらしい」

「どの辺がセットくさい?」

「考証がいろいろ間違っている。畳の上を土足で歩くし、風呂は男女混浴だし、あまり日本の風呂らしい形をしていない」

「ふーん。アメリカ人が考えた日本って感じだね」

「日本ロケといっても、アメリカ人好みのバタ臭い映像ばかりで、これも【作った勘違い日本かな】と思ったのだが、そうでもないのだ」

「たとえば?」

「あまり日本風とは言えない旅館が出たと思ったら、本物の【箱根の富士屋ホテル】だそうだ。写真がWikiPediaのトコリの橋のところに載っているがそっくりだ。本物だったのだ。別に中国風の建物を撮って日本と偽ったわけではないのだ」

「えー」

「では、このケバケバしい日本とは何か」

「なんだ?」

「実は、昭和20年代の日本は、進駐軍に媚びを売るためにそもそもケバケバしかったのではないか。特に田舎ならともかく、進駐軍から見える部分はその傾向が特に強かったのではないか。当時は生の日本を見たアメリカ人兵士も多かったのだ。何しろ朝鮮戦争の後方補給基地だからね。みんな日本を経由した。この映画の中にも日本人の恋人を作る奴が出てくる。しかも寝取られて他の恋人を作るぐらい出てくる。実はロケ部分に関しては割と正確な昭和29年の日本像を描いているのではないか。日本全体がこうだったわけではないが、日本が進駐軍に見せる顔はこんなケバケバしいものではなかったのか。そんな気がした」

「そんなに過去像が食い違うものかね」

「この映画はカラーだが、日本に残っている昭和20年代の写真はたいていモノクロだからね。色は分からない」

「昭和29年のゴジラはモノクロ映画だね」

「WikiPediaによると、横須賀港や、箱根の富士屋ホテル、当時、新橋に実在したキャバレーショーボートなどが使われたとある。これらは、映画的に作った部分はあるかも知れないが、全部作るのは無理なので、主要ではない部分は割と正確に当時の日本を描いている可能性がある。しかもカラーで見られる」

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