Subject: 感想・映画「風立ちぬ」TV放送
Keyword: 【▲→トーノZERO→アニメ感想→風立ちぬ】
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名前: トモネコ
本文:
私もTV放送をダラダラと視たのですが
(DVDを買っているもので)
最後のセリフに注目しました。
宮崎監督はこの作品を最後にするつもりで臨んだ訳ですから最後のセリフに何か意味を持たせるかと思い視ていたのですが、ワインを勧めるセリフで深い意味があるのかストーリーの流れに合わせたものなのか考えていました。
右翼と左翼、両方から叩かれる作品との事ですが「永遠の0」も両者から激しく叩かれていると思います。
ゼロセンとヤマトが出ると右も左もムキになる気がします..
気になった事があるのですが
「最後は一機も帰ってこなかった」ですが戦争で戦闘を体験され生き延びた方々はいらっしゃいます。
NHKの戦艦大和のドキュメンタリーで沖縄特攻で生還された現住職の方がヤマトで生
き延びたと子供に話したら「大和に乗っていた兵隊は皆戦死した筈」と言われとても悲しかったと語っていました。
戦後生き延びた人は戦死した人に申し訳ない気持ちを持ち続けたそうです。
「一機も帰らず」では思考停止では?
(ストーリーの流れもあると思いますが)
TVを視ていて感じました。
「この件を突っ込む気は無かったのだが、いたしかない。少し続けよう」
「まだ続ける話があるのかい?」
「とりあえず話を【一機も戻って来なかった】に絞ろう。二郎の傑作、ゼロの大編隊が飛んでいくが、一機も戻って来なかったと映画の中では語られるが、もちろん全機未帰還という話はない。基地に帰還した零戦もあれば、生還した搭乗員もいる。そんなことは、どう考えても作ったスタッフも分かっている。それにも関わらず、なぜ【一機も戻って来なかった】なのだろうか。そこが重要だ」
「事実をねじ曲げることの理由?」
「ここでもう1つの論点を追加しよう。この映画で言っている【一機も戻って来なかった】とは何がどこに戻らなかったという話なのだろうか」
「は?」
「つまり、これは二郎の言葉だ。二郎にとって戻ってくるとは何を意味するのだろうか。零戦が基地に帰還したら戻って来たことになるのだろうか。搭乗員が戦後も生きていたら戻って来ていることになるのだろうか」
「どういう意味だい?」
「零戦が基地に戻ったところで二郎には分からない。二郎は軍の指揮官ではなく、民間企業の三菱の社員に過ぎないからだ。そんな情報は得られない」
「じゃあ、二郎本人から出発した零戦が、1機も二郎本人のところに戻らなかったという意味?」
「それはあり得ない。二郎は設計者であり製造はしていないのだ」
「ならば何だよ」
「三菱で製造されて納品された零戦で、三菱に戻ってきた零戦は1機もない。そういうことではないだろうか。まあ、レストアのために戻って来た零戦もあるようだが、それは戦後かなり経ってからの話だ」
「そうか。この場合の【戻ってくる】とはあくまで三菱で製造された機体の話であって、搭乗員は関係ないんだ」
「そう。搭乗員が生きていても死んでいても関係ない。三菱の工場はパイロットを製造していない。あくまで送り出しているのは機体だけだ」
「つまり。視点を旧日本海軍に持つか、三菱に持つかの差だね?」
「そうだ。あくまで二郎は三菱の人間で、軍はあくまでお客さん。仲間でも味方でもない。でも、特高から守ってくれた三菱は味方であり仲間なのだ」
「すると、1機も戻って来なかったという話もすんなり解釈できるね」
だがしかし §
「話はこれで終わらない」
「は?」
「実はね。リアルに見えて史実に反する話はけっこう多い。そもそも、ストーリーの中核になっている二郎とヒロインの恋物語そのものが史実に反している。これはどういうことだろう?」
「どういうって……フィクションだからだろう?」
「実はこの映画、最初から最後まで夢で貫かれている。二郎の夢がカプロニおじさんの夢とつながっていると描かれるが実はそうでもない。冒頭の空の戦いは二郎だけの夢なのだ」
「他人の夢とつながったというのも夢なんだね」
「そう。とすれば、二郎の夢も、そうなのかもしれない」
「は?」
「ミスターXが夢を見ているが、彼の夢は二郎の夢につながった。しかし、二郎の夢はミスターXの夢に過ぎないのだ。その場合、実は目覚めている二郎の世界も、ミスターXの夢に過ぎない。つまり、風立ちぬという映画全体がミスターXの美しい夢なのだよ」
「ミスターXって誰だよ」
「おそらく、クレソンおじさんの姿になってこっそり夢の世界に入ってきた男だよ。この世界が夢に過ぎないことを分かっているから夢の話をする。軽井沢は夢の世界だと言うが、実はこの世界全体が夢の世界なのだ。ただし、悪夢も多い。軽井沢以外は悪夢ばかりだ」
「酷いな!」
「だが、それこそが夢なのだ。美しい夢だけが夢だとは思うなよ」
「ではミスターXとは誰なんだよ」
「自分の夢を映画としてフィルムに焼き付けられる人間だよ」
「あえて名前を言う必要は無いってことだね」
「言ったら野暮だ」
夢階層の問題 §
「そのように解釈するならこの映画は夢の中で夢を見ることになるぞ」
「インセプション(2010)という映画があってね。これは夢の中でまた夢の中に入るという行為を繰り返して4重の夢の世界がある。これに比べれば、夢の中の夢など複雑とも言い切れない」
「でも難しいよ」
「難しいね。いわゆる【メタの恐怖】に近い。メタメタ構造に対応するのだ」
「頭がめためたになってきたよ」
「ならばもう寝てしまえ。寝て美しい夢をみたまえ」
「まさか僕も君の夢の登場人物!?」