「実はイスカンダルへの航海には、2つの矛盾した側面がある」
「2つとは?」
「ヤマトの目的は地球を救うことだよね」
「そうだ。だから、ガミラスと戦いたい古代は馬鹿者として沖田から怒られる」
「そうだね」
「ところが艦長代理は古代になる」
「は?」
「実はよく考えると、話は少し違うのだ」
「どこが違うんだ?」
「ガミラスへの復讐心は実は2種類ある。だから本当は3つの方法論があるのだ」
「ガミラスと戦うという要素は2つに分けられるのだね?」
「そうだ。2つに分けて書き直してみよう」
- ガミラスと戦って撃破する
- ガミラスにひと泡吹かせる
- 地球を救う
「すると何が違うんだい?」
「古代がやろうとしたのは【ガミラスと戦って撃破する】。島がやろうとしたのは【地球を救う】。では沖田がやろうとしたのは?」
「何だろう?」
「沖田は、地球を救うためにヤマトは改造されたと明言し、最後に【地球か、何もかもみな懐かしい】と言って死ぬから、沖田の目的も【地球を救う】であるかのように思える。ところが、よく考えると、どうも違う」
「どこが?」
「沖田はまず【見ておれ悪魔め】と言っていて、ガミラスへの闘志を絶やさない。そして絶命する時には、家族の写真を手にして泣いている。しかも、ガミラスでの決戦では【やりなさい古代】と言い、しかもガミラス星を滅ぼすアドバイスを即座に与えている。そもそも決戦を回避しない傾向が強い」
「それってなに?」
「だからさ。沖田の狙い目は【ガミラスにひと泡吹かせる】にあるんだよ。でも、地球を救うためだと嘘を付いてヤマト艦長の座に着いた」
「まさか」
「事前に熟慮せずに、あんなに素早くガミラスの海に潜るというアドバイスを与えられるものか」
「じゃあ沖田の本当の心情はどこにあるんだ?」
「死に際に家族の写真を持っていたのだから、沖田の行動を支えたのは、家族を殺した者への復讐だ。そして、なぜ地球が懐かしいのかと言えば、家族と過ごした場所だからだ、実は地球を救うことは沖田の目的ではない。だから、地球の再生を見ずに沖田は死ぬことができる。地球を一目見るまでは死ねないと沖田は思っているが、それは家族との思い出の地をもう一度見たいということであって、救いたい訳ではないのだ」
「じゃあ、艦長代理が古代になった理由は?」
「島は本当に地球を救おうとした。だが、それは沖田の目的に合致しない。沖田が望んだのは死んだ家族のためにガミラスに一泡吹かせることだ。その点で、兄が死んだ古代は、沖田の目的に近い。ガミラスと見るとすぐ戦いたがる若さはむしろ邪魔なのだが、緊急時に周囲を説得して波動砲を撃てる説得力は価値がある。むしろ、沖田の狙い目に近い」
オマケ §
「ならば完結編の沖田はどうなんだよ」
「結局、ヤマトでの戦没者と一緒に死者の国に戻るのが沖田の役割」
「SBヤマトは」
「地球の最期を迎えるにあたって希望だけを残すために嘘を付いた嘘つき。嘘から出た真になったのは偶然。最強の大悪党というべきか、日本沈没で【何もせんほうがええ】と言った達観した台詞と同じ境地かは知らないが」
「ヤマト2199は?」
「沖田というキャラクターは分裂していて1つの沖田像は結んでいない感じだ。違う沖田像を与えようとした試みと、旧作通りに描こうとした試みがあって、分裂してしまった感じだろう。特に、時々【子供が考えた可愛いお爺ちゃん】の顔になってしまい、そもそもリアリティのあるキャラクターになることに失敗している感じだ。まあ、ほとんどが【子供が考えた可愛いお爺ちゃん】の顔になってしまった徳川よりもマシと言えばマシだが」
「君が好きな沖田像はどれだい?」
「ヤマト1974の沖田像だな」
「それは分かってる。2番目は?」
「完結編の沖田は、狙い目は良いが表現に難がある。SBヤマトの沖田は意外と好きだぞ」
「嘘つきのどこが?」
「もはや死ぬしかないと分かった時、おいらも希望を持って死ねるように嘘を付くタイプだからさ」
「ぎゃふん」
オマケ2 §
「ならさ。どうして沖田は【わしは地球にさよならを言うぞ】と酒を飲むわけ?」
「そこだっ!」
「どこどこ」
「そこが最も重要だ」
「どうして?」
「実は沖田がさよならしたのは地球への未練なのだ」
「えー」
「その証拠に、沖田は地球に向かって叫んでいない」
「なんてこった」
「だからね。古代にも言えと強要したのは、古代にも未練を捨てさせたいからだ」
「でもさ。必ず帰ってくると言うよ」
「あれは古代に言わせたかったことだろう。古代は必ず帰らねばならない。沖田は死すともね」