2015年07月23日
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三百字小説『見ず知らずのミミズ』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ある日庭いじりをしていると、ミミズが地面から顔を出して挨拶をした。

 「やあ、調子はどうですか?」

 だが、相手が誰が思い出せなかった。

 口ぶりからすると顔見知りらしい。しかし、この庭で会った相手ではあり得ない。おそらく、地面の中を移動中に立ち寄っただけなのだろう。

 だとすると困ったことだ。

 ミミズと出合う機会などいくらでもあり、相手が誰か思い出すのは難しかった。

 そこで一計を案じた。

 相手の職業を質問するのだ。職業が分かれば出合った場所を絞り込める。思い出せる確率が上がるのだ。

 見ず知らずのミミズは言った。

 「水商売です」

 「分かった。あなたは先月釣り堀で買い求めたイトミミズさん」

 「違います」

(遠野秋彦・作 ©2015 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦