「届いた翌日に読み始めてその日のうちに読み終わった」
「なんで?」
「テレビ見ないで読んでたからな」
「なんで見ないの?」
「面白かったからだ。破格に面白かった」
「ふーん」
「ただし、注意すべきことは、これは良く出来た物語であり、よくいろいろなことを調べたと感心するとは言え、100%事実を書いている保証が無いことだ」
「それはどうしてそう思うの?」
「それはね」
- 西崎義展という規格外の男の生涯を描く【物語】として非常に良く出来ている、つまりそのための取捨選択や改変は想定できる
- そもそも歴史というのは、証言だけでは成立しない (証言は不確実)
- そもそも、関係者の話は最初から盛っている可能性が高い
「説明してくれ。【物語】として非常に良く出来ているとは?」
「たとえば、ヤマト2199やヤマトよ永遠には【物語】としての出来が良くない。ヤマト2199には山のように未回収の伏線があるし、永遠には伏線を削って回収部だけ残っているような描写もある。全体的にバランスが悪い。出てくる必然性があまりにも弱いキャラクターも多い」
「【物語】に対して不誠実だってことだね」
「その点で、この本は全体の流れがしっかりしていて、読者を迷うことなく物語の中に取り込んで結末まで連れて行ってくれる。物語とはかくありたいね。そういう、かなり理想的な【物語】だよ。そこは惚れ惚れするね」
「ふーん。たとえば1つだけ例を挙げれよ」
「いきなりクライマックスから入る。掴みの常道。そこから時間を遡って改めて物語がスタートとする」
「冥王星決戦から入る追憶の公開と同じだってことだね」
「あれが常道なんだ」
「では、証言は不確実っていうのは?」
「同じ現場にいて同じ光景を見た人ですら言うことは違う。まして、時間が経過すれば同じ人でも言うことが変わっていくことがある」
「じゃあ、最初からも持っている可能性が高いとは?」
「ヤマトークその他でいろいろなスタッフの話を聞いてみて感じたのだが、たぶん大なり小なり話を面白くするために盛っている。安直に事実だと思うと痛い目を見る」
「そうか」
「それに、言えないこともゴロゴロとあると思う」
「西崎さんが死んだから言えることもあるのでは?」
「確かに、死んだから言えるようになったこともあるだろうが、反面、まだ言えないこともいろいろあるはずだ。まだ生きている人間が絡んだ話は、まだ言えないかもしれない」
「そうか。関係者の多くはまだ生きているわけだね」
「しかも、明瞭にヤクザとの関係まで本文に書かれている。アンタッチャブルゾーンがあってもなんら驚かないぞ」
「ひ~」
「もちろん、事実をベースにしているからノンフィクションではあるのだがね。シーホース事件だってネットを調べれば出てくる」
「でも、何を書いて何を書かないかだけでも印象が変わるわけだね」
「そうだ。そうやって1つのメッセージを浮かび上がらせていくのが【物語】の1つの機能性だ」
もうちょっと率直に §
「もうちょっと率直な感想を頼むよ。どう面白かった?」
「西崎帝国の勃興と破局も面白かったけどね。他には、西崎さんと女。断片的な話は聞いたことがあるが、これだけ全体像を語られると絶句するものだな」
「ひ~」
「あとね。西崎さんのケチな性格。金を湯水のように使うという話ばかりだったから」
「ケチか」
「ヤマト2199の続編なんて、普通にやったらろくでもない内容にしかならないアニメなんか企画するよりも、これをアニメ化した方が絶対に面白いと思ったよ」
「ならそうすればいいじゃん」
「できないよ。続編の企画はヤマト2199の商業的成功の上にあるんだ。西崎義展の伝記で成功できる実績は無い」
「ぎゃふん」
「しかも、そういう話はこの本にも書いてある」
「あーれー」