「調布の陸軍244戦隊を調べている中で派生的に出てきた問題が1つある」
「それはなんだい?」
「五式戦の評価だ」
「ふーん。具体的にどんな評価?」
「まず日本側の評価はこんな感じらしい。以下特記しなければWikiPediaからの引用だ」
- 本機の飛行性能に関し、好意的な評価や証言が多数見られる。五式戦に対する操縦者からの評価は総じて高く、陸軍戦闘機最優秀とする意見も少なくない。
- また五式戦を装備した飛行第59戦隊は、P-51となら対等、F6Fなら問題無し、F4Uならカモと評した。
- 第244戦隊長小林照彦少佐などは「五式戦をもってすれば絶対不敗」とまで言ったという。
「高性能ってことだね」
「しかし、アメリカ側の評価は以下のような感じらしい」
- なお、戦中、アメリカ軍は五式戦闘機の存在を認識しておらず、特にコードネームは与えられていない。
- 小牧基地で4機が接収されアメリカに搬送されたが、本機は特にアメリカ軍の興味を引かずまた性能テストもされず、戦後のレポートでは、性能や構造などで特に感銘は受けなかったらしい。
「それはおかしいね。絶対不敗とまで言われた戦闘機が、なぜアメリカ軍の興味を引いていないの?」
「そこだ。その謎を考えてみたが、裏付けのとれないことがいろいろあるので、ここではまず暫定版のメモを説明してみたい」
「結論では無いわけだね」
「ただの思い付き。仮説だ」
「なるほど」
「ところが、五式戦を【最後にして最強の軽戦】と見なす考え方を知ってから、別の問題と連動することに気づいた」
「それはなんだい?」
- 大戦末期、零戦五二型に乗ったベテランよりも、古い二一型に乗った若輩パイロットの方が戦果を上げたという話があるらしい (適当に記憶で書いた。事実かは知らない)
- ドイツの戦闘機は概ね高翼面荷重の高速機であった為、対日戦の場合とは逆に、艦上機としての低翼面荷重を生かした格闘戦でこれに対抗した。(WikiPediaのF4Fの項目より)
「つまりなんだい?」
「この問題は、いわゆる重戦と軽戦の問題に還元できるというアイデアを得たのさ」
「その問題とはなんだい?」
「それをここから説明しよう」
重戦と軽戦 §
「重戦と軽戦は正式な定義があるわけでは無いようだが、一般的な話をすれば、軽戦は軽量で旋回性能が高く格闘戦に向き、重戦は大出力と大火力を持ち一撃離脱戦法に適するらしい」
「それで?」
「第二次世界大戦において、世界的な潮流は重戦に向かった」
「なんで?」
「まあ、いろいろあるのだがね。強引に自分なりにまとめてしまうと、経験が浅くても戦果を上げやすく、軽戦相手なら勝てなくても負けないで帰還できる確率が高いからだと思う」
「それはどういうことだい?」
「機銃を撃ちっぱなしにして突っ込む。当たらないかも知れないが、当たればラッキー。そして、そのまま高速で離脱してしまえば、軽戦では追いつけない」
「なるほど。勝てないかもしれないが負けないわけだね」
「そうだ。つまり戦場での主導権を握れるわけだ」
「でも撃墜出来ないとしても良いの?」
「それが良いのだ。たいていの場合、敵を拘束して敵の意図を実行できないようにさせればそれで良いからだ」
「たとえば?」
「爆撃機の護衛なら、そうやって敵の戦闘機を拘束して爆撃機に行かせないだけで爆撃機は爆弾を落とせる」
重戦と軽戦はどちらが強いか §
「それで、重戦と軽戦はどちらが強いの?」
「一般論で言えば、重戦の方が強い。逃げに入った重戦に、軽戦では追いつけない。直線的に攻撃してくるだけの重戦に対して、いくら旋回性能が優れた軽戦でも逃げる以外の対策は採りにくい」
「なるほど」
「ところがね。ある前提を導入するとこの評価は逆転しうるわけだ」
「それは何?」
「重戦で格闘戦をやってしまうとすれば、軽戦が得意なフィールドになるのだ」
「どういう意味だい?」
格闘戦の問題 §
「ACE COMBATというゲームを繰り返しやっているうちに気づいたのだがね。何も考えないでやっていると、格闘戦に入ってしまいやすいという現象に遭遇した」
「それはなぜ?」
「何も考えないで、敵の行動に反射的に対応していると以下のような状況になりやすい」
- 敵に撃たれる
- 旋回して避ける
- 敵も旋回して追いかけてくる
- 更に旋回して逃げる
- 敵の尻が見えてくる
- 必然的に反撃は、敵の尻に食らいついて撃つことになる
「それはビギナー?」
「実は、他の状況でもこれが起きやすいようだ。ACE COMBATの対人戦では、同程度の性能の機体ならばぐるぐるまわっていつまでも決着が付かない。ベテランは高速ヘッドオンの体制に持って行き、撃ち合うらしい」
「なるほど」
「大戦末期のアメリカ軍なら、大量の機体に乗っているパイロットがみなベテランとは考えにくく、経験が乏しいパイロットも多数含まれていただろう。彼らは、ついうっかり軽戦が仕掛けてくる格闘戦に巻き込まれてあえて不利なフィールドに入って落とされた可能性がある」
「分かったぞ。それはあくまで重戦にとって不利なフィールドにうっかり巻き込まれるから起こる現象で、機体の特質を活かしていないわけでだね」
「そうだ。しかも、もう1つ悪いニュースがある」
「それはなんだい?」
「ヨーロッパではアメリカの戦闘機は格闘戦でドイツ戦闘機に対抗していたらしいのだ。そこで格闘戦が染みついた戦闘機パイロットが、ドイツの敗戦に伴って太平洋戦線に来ていたら、無意識的に格闘戦をやってしまうかもしれない」
「それは、【最後にして最強の軽戦である五式戦】から見るとカモなのだね?」
「そうだ。でも、それはパイロットがヘボなのであって、【五式戦】が本当に強いという話には直結しない」
「そうなの?」
「だからさ。以下のような記述が実は妥当なところだろう」
- ただし7月25日の戦闘の様に、日本側はF6Fを10機撃墜3機撃破、自軍の損害2機とするも、米軍側の記録では逆に撃墜8、撃墜不確実3、撃破3、自軍の損害を2とするなど、実際は互角であったと言うケースもある
「つまりなんだい?」
「格闘戦をやってくれる米軍機がけっこういて、彼らを相手にした時は五式戦で互角以上の戦いができたのだろう。しかし、格闘戦に乗ってこない過半数の敵機に対しては旋回性能を活かして逃げる以上のことは困難であり、無力だったのではないか」
「それはどういう意味だい?」
「勝ちが見えた大戦末期にあって、アメリカ軍にも緩みがあったのだろう。その緩みに五式戦という機体は偶然にもすっぽりはまってしまった。しかし、それに対する対策は、五式戦を仮想敵として攻略方法を練ることではなく、緩みを引き締めることだったのだろう。それだけで、おそらく負けない」
「勝つのではなくて?」
「そうだ。1対1ならそれで十分」
「日本側から見ると?」
「格闘戦に乗ってくる敵機は必ずいるから、そいつを追い回せば戦果が得られる。撃墜スコアが増えるのだ。確実に戦果をもたらしてくれる五式戦への強い信頼が芽生えてもおかしくない」
「でも、落とせない相手いたはずなのだね?」
「おそらくな。でも、そこは重要な問題ではない。全機落とすのは絶対に無理なので、落とせない敵機にわざわざ向かっていく意味は無い。落とせる敵機でスコアを稼ぐ方が優先されるだろう」
「なるほど」
「更に悪い話が1つある」
「それはなんだい?」
「格闘戦を愛好するパイロット達の存在だ。彼らは格闘戦での成果をことさら強調して自説の正しさを補強しようとするだろう」
「誇張もあり得るわけだね」
その他の事例 §
「では【零戦五二型に乗ったベテランよりも、古い二一型に乗った若輩パイロットの方が戦果を上げた】という話はどうなんだ?」
「零戦五二型というのは、より重戦的な性格付けを行った零戦であり、アメリカ軍の標準的な敵の一種。ところが、時代遅れの二一型は軽戦的な味付けの時代遅れの機体であり、上手く対応できないパイロットが多かったものと思う。事実かどうかは知らないが」
「それってどういうこと?」
「機体の性能だけなら五二型の方が高いはずだよ」
「じゃあ、アメリカ戦闘機がドイツの戦闘機相手に格闘戦をやったというのは?」
「詳細は知らないがね。ドイツのパイロットも、格闘戦を誘ったら乗ってくるビギナーが増えていたのではないかな」
まとめ §
「ではまとめてくれ」
「太平洋戦争末期といえば、もう軽戦を作っている時代ではなく、実際に日本の陸海軍でもほとんど開発していない。ところがエンジンの無い三式戦の機体が並んでしまったので、空冷エンジンを載せて五式戦が成立してしまった。重い液冷エンジンを積むはずの機体に空冷エンジンを積んだ結果として、【最後の最強の軽戦】が偶然産まれてしまったわけだ。誰も計画などしていない偶然だ。従って、誰も対策を考えていなかった。だから誰も考えていなかった戦果が挙がった。でも、五式戦で日本が勝てるのかと言えば、それはおそらく無理」
「相手を理解して対策を採れば恐くないってことだね」
「だからこの話を一般化すれば、【奇手による敵の攪乱】というのが妥当なところではないか」
「弱いはずの時代遅れの兵器をあえて投入すると、対策が無いので効果を発揮してしまう場合があるわけだね」
「でも長続きはしない。奇手とはそういうものだからだ。理解して待っている相手には通じない」
「結局、真の大東亜決戦機はやはり四式戦ってことだね」
「そう思うよ」
補足 §
「で、これは正しい説なのかい?」
「いや。いろいろ裏付けが取れない話があって、最初に言った通り、単なるアイデアメモ」
「ただのメモかい」