「なぜこれを見に行ったんだい?」
「小林誠さんの仕事なので」
「それだけ?」
「うん」
「TVシリーズが好きだったとか?」
「別にない。ってか、TVシリーズの銀翼のファムは最初の数回しか見てない」
「なんで?」
「あまりにも見るのが苦痛だったので」
「どこがダメだった?」
「ファムとジゼルが優秀すぎて、年長者より成果を出すという展開が余りにも嘘くさくてねえ。ジゼルなんか、これ絶対人間じゃ無いってぐらいに優秀すぎて、魅力を感じるどころか引いたよ」
「ひ~」
「大人と子供の差がない世界観だったわけだな」
「でも、今回の映画は最後まで見たんだろう?」
「もちろんだ」
「苦痛を我慢したの?」
「いや。どこにも苦痛は無かったよ」
「まさか」
「編集の奇跡だね」
「ファムとジゼルは嘘くさくなかったの?」
「ファムは過剰に優秀すぎる立場から、せいぜい威勢の良い【チームのポイントゲッター】ぐらいの立場に後退し、ジゼルは単に【記憶力が良くて正確さにまめなナビゲーター】ぐらいに後退して、それなら確かにどこかにいそうだと納得が行った」
「なるほど」
「更に、物語の軸を明確にミリアに据えた結果として、実はファムは主役とは言えない立場に後退している」
「では【銀翼のファム】というタイトルは間違いなの?」
「そうじゃない。ミリアがファムから元気をもらって、姉の付属品から脱して自分自身となり、世界を救う話なのだ。だから、ファムこそが物語の駆動力であり、タイトルに名前を冠する価値がある」
「でも、物語はミリアの物語なのだね?」
「そうだ。そして、ファムとジゼルの物語ではない。実はジゼルの立場は後退しており、これはミリアとファムの物語として構成されている」
「それに意味があるの?」
「ある。ジゼルというのは、ファムの同格のパートナーとして扱ってしまうと、単に優秀さをひけらかすだけの嫌みなキャラになってしまうのだよ」
「思い悩むミリアと、楽天的なファムの組み合わせだからこそ、物語が円滑に回るわけだね」
「そう思うよ」
オマケ §
「で、1つ重要なことは、この物語は思いっきりミリアもファムも挫折しちゃう物語だが、挫折は好まれないってことだ」
「ダメじゃん」
「劇場で客層をよく見ておけば良かったと思ったがね。小さめのスクリーンとは言え、満席に近かった。まあ夕方割で安かったという特別な理由はあるだろうが、ともかく客は割と多かった。そして、単なる印象だけで言えば、年齢層はけっこう高めだったと思う」
「それに意味があるの?」
「あるとも。挫折の物語は1970年代までは普通だった。年齢層が高いということは、挫折の物語を忌避しない客層なのだろう……ということだ」
「挫折を忌避するのは比較的若い層だってことだね」
「おおまかな傾向だな。まあ、若ければ挫折はダメとか、歳を取っていれば挫折はOKとか、そんな単純な話ではないがね。でも、最近は挫折が好まれない」
「それはいいことなの?」
「物語作りの難易度が上がるから、クズが増えた。あまりいいことじゃない」
「君は挫折がある物語の方が好き?」
「そうだ」
オマケ2 §
「で、映画として言うなら、レースに始まりレースで終わった。きちんと映画になっている。主題を提示して、それを回収して終わった。この構成は見事だ。監督の高橋幸雄さんか、構成の神山修一さんが優秀だってことだろう」
「そんなことを語って何の意味があるの?」
「いやね。実は神山修一さんってバトルスピリッツブレイヴの脚本書いた人だと分かってね。それなら、これぐらいできても不思議じゃないよなあって思った。思っただけでそれに意味があるのかは知らない」
「なんだよそりゃ」
「製作現場の実態なんぞ知らないからね」
オマケ3 §
「うんだからね。この映画には挫折もあるし、大人らしい大人もちゃんといる。そういう意味で今どきの風潮に逆らってはいると思うよ。その反逆精神がすがすがしいし、本来はそれが王道」
「世界が邪道化しただけってことだね」
「そう。だから、高年齢層は本来の王道を王道として受け止められるのだろう」
オマケ4 §
「それそれとして、久しぶりにミリタリー用語がそれなりにちゃんと使用されたアニメを見た気がする」
「断酒手甲とか?」
「弾種徹甲だ」
「ジョークジョーク」
「エグザイルを武器として使う使い方の駆け引きも面白い。姉に使えて妹のミリアに使えないことはないと思っていたら、ここぞという場面で使用されたし」
「しかも、ディーオの言葉で発動」
「ディーオは良かったね。すちゃらかに見えて、ここぞという時には守って戦ってくれる」
「ディーオは良かった?」
「良かったよ。インメルマンって呼ぶ代わりに自分がインメルマンターンしてたがね」
オマケ5 §
「あえて問題点を指摘するなら?」
「女の子の声優の演技がキンキンしすぎて少し耳障りだった。地声がこんなに高いとは思えないので、そういう演技指導で育成されてしまっているのかな」
「分からないのかい」
「まあ他のアニメでも酷いのは多いから、これに限った話ではないだろうが。それに、他のアニメのことを思えばまだマシ」
「酷いって?」
「映画が始まる前の他のアニメ映画の宣伝で、聞くに堪えない声優の声は延々と聞かされたよ。わざとダメな声を出していると思うが、要するにそれが今どきの客の要求なのだろう」