2016年05月26日
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三百字小説『君ののぞみはなんだ。僕ののぞみは300系だ』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 我が輩は人間の望みを叶える悪魔だ。

 我が輩はN700系に乗って東海道新幹線で通勤していた。何しろカモは東京に多いから、名古屋や大阪ではあまり獲物にありつけないのだ。

 それにしても、昔は300系で運転されていた【のぞみ】も、今やN700系の時代だ。

 今日の獲物は、鉄道ファンの男だった。

 N700系を降りると、その男はホームでカメラを構えていた。

 「君ののぞみはなんだ」

 「あ、N700系から降りてきた人だ」

 「その通りだ。君も乗りたいか?」

 「僕の望みはN700系よりも300系ですよ」

 「その願い、叶えてやろう」

 「わーい」

 速度で劣る300系ののぞみは、すぐに後続列車に追突されて彼は昇天した。

(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)

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