我が社は、オンデマンド印刷システムのサービスを開始した。注文があってから一冊単位で印刷するから、絶版が存在しない優れ物だ。販売部数の少ない個人出版にも適した。
ところが、このサービスを曲解して中傷する本が出回り始めた。
「どこの出版社だ」
「個人の自費出版なので出版社は関与してません」
「じゃあ、印刷所はどこだ」
「どこに問い合わせてもうちでは刷ってないというばかりて……」
「一冊現物を手に入れてこい」
さっそく現物が届いた。
「この仕上がり。雑だな。普通の印刷じゃないぞ」
その時担当者が駆け込んだ。「やっと印刷したのが誰か分かりました。我が社のオンデマンド印刷サービスです」
(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)