2016年09月14日
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感想・映画「君の名は。」

Written By: トーノZERO連絡先

「なぜこれを見たんだい?」

「流行り物なので」

「期待した?」

「していない。まあ【映画は見るまで分からない】のでつまらないだろうという予断も持っていなかったがね」

「それで、新海誠作品は過去に見たことはあるの?」

「ない」

「なぜ?」

「つまらなそうだったので」

「では、なぜこの映画は見たの?」

「流行り物だから、流行る以上は魅力が無いことも無いだろうと思ったので」

「実際に見た結果は?」

「新宿や渋谷でほぼ満席はよく見るのだが、まさかTOHOシネマズ府中で、しかも大きなスクリーン2でほぼ満席というのはあまり見たことが無い。本当にお客さんに支持された映画なのだろうと感心した。ロビーも混雑していて、映画館も【君の名は。】に足を向けては眠れないだろう。たぶんゴジラにも」

「実際に見た映画の内容は?」

「大ざっぱな感想を言えば、巨神ゴーグの再来。というか、営業的に失敗しなかった巨神ゴーグ」

「それはどういう意味だい?」

「映像は美しいのだが、キャラクターの性格付けやストーリーが甘い。たぶん、この話を26話のTVシリーズでやったらつまらなくなる。107分で終わったからヒット作になれたと思う。まあ、本当は107分でも長いぐらいだと思うが」

「それが最終結論?」

「いや。実はそうじゃない。この映画はキャラクターもストーリーもひねりが少なくて陳腐すぎるのだがね。実はそれって誰でも入っていける間口でもあるのだ。映画慣れした人に向けた作りではないからこそ、ヒットになり得るという逆説なのだろう」

「ちょっとよく分からないぞ」

「この映画は描かれていないものは非常に多いが、逆に存在しないものを存在しているはずだと思って見ている側が補完してしまうと、凄く豊潤な世界が現出するのだ」

「そんな現象があり得るの?」

「ある。エヴァンゲリオンで既に起きた現象だ。これを仮にエヴァ型と呼ぼう。実はシン・ゴジラも同じ構造でエヴァ型」

「つまり、今夏のヒット作はエヴァ型がトップであると」

「そうだ。存在しない中身をファンが追いかけた結果として、エヴァンゲリオンは豊かな中身を持つとされてしまった。同じことがこの作品にもある」

「でもヒットしたよ」

「エヴァンゲリオンもヒットしたよ」

「君個人はどうだったんだい?」

「最初からこの映画には入り込めなかった」

「理由は?」

「主人公にも周囲の人にも共感できなかった」

「ではもっと具体的に君が感じた感想を教えてくれ」

「この映画がヒットしていることも、支持しているファンがいることも理解した。それはエヴァンゲリオンで経験したことだからだ。そういう現象があることはよく分かっている。でもおいらの趣味ではなかった。おいらは作品に入れなかった」

「何が良くなかった?」

「人や物語の描き方が記号的すぎて血肉の通った存在に見えなかった」

「でも、それは作品に入り込んだ人には関係ないのだね?」

「そうだ。記号だからこそ見る人が自分で血肉を通わせてしまい、逆説的に非常に生々しい存在にしてしまうからだ」

「それから?」

「単純に作品作りの構造上の問題を言うなら、単体でも十分に映画のテーマになり得る【入れ替わり】【タイムトラベル】【彗星の激突】というまずあり得ない要素を詰め込みすぎて話の行方がよく分からなくなっていた。特にタイムトラベル要素は良くなかった。あれは作品に矛盾をどうしても入れてしまう。細田版時をかける少女にすら矛盾がある。あと【二人主人公】も良くないね。話が膨らみすぎる。歌が多くてストーリー進行に使える時間がただでさえ少ないのに、その少ない時間を食う要素ばかりだ」

「それだけ?」

「いや。やはりこの作品には本当の意味での大人がいない。他のオタク向けの普通の作品群と同じようにね。まあよくあることなので強くは言わないし、若いファンから見ればどうでもいいことだろうから強くは言わないがね」

「じゃあ、最後に君の感想をまとめてくれ」

「絵が綺麗だし、若いファンが感情移入できる口もあるのだろう。でも科学的な描写の正確さには疑問符が付くし、性格面でのキャラクター造形は今一つ突っ込みが足りなかった。ストーリーは今三つぐらい練り込みが足りない。しかし、まあ、これだけ映画を沢山見るとそれぐらい突っ込みの足りない映画は他にも普通にあって劇場公開れていることを知っているからな。ファンが満足して見ているのならそれはそれで良いのではないか? 単においらの趣味には合わないってことで」

「科学的な正確さってティアマト彗星の軌道?」

「いや他の部分で」

「科学的な正確さに疑問符が付くのもう1つのヒット映画との共通点ということだね」

「別に面白かったらそれでいいのだけどね」

「では今の気分を」

「まあともかくホッとした。映画は見るまで分からないからね。流行りの映画として見たから、【自分はこう感じた】という感想を普通に言えるようになった」

「では君の成果はTOHOシネマズ府中のスクリーン2がほぼ満席になる光景が見られたことと、それなのだね」

「あと女性で混雑するロビーと行列する女子トイレも見られた」

「なんで女子トイレの行列を知ってるんだよ。女装して女子トイレに入り込んだのかよ」

「いや、トイレのドアの外まで行列がずらりと並んでいたから」

オマケ §

「丘の上の学校がシュティーア城に見えた。眼下にベルカが自爆させた核クレーターが見えた。しかも空からユリシーズまで落ちてきたよ。2016年にもなって、またユリシーズの惨劇を見ることになるとはね」

「つまり、湖が二つあって、一つが最近出来たクレーターに水が溜まったもの、……という描写がいたくアレを連想させたわけだね?」

「その通り」

「分かったぞ。この映画の主な客層は若い女性層だから、ハーリング大統領なんか助けたこともない人たちで、あれは新鮮なんだ」

「まあ、今日は俺の誕生日なんだとか言い出すAWACSに指示されてクレーター上空で爆撃機編隊を撃墜したこともないだろうし、爆撃機の迎撃中に核が爆発してピクシーが飛び去った経験も無いだろう」

「ひぃ~」

余談 §

「宿屋であっさり男2人と同じ部屋で寝てしまう美女の先輩。あの描写はあれでいいのか。違和感が無いのか。そのあたりを若い女性ファンには聞いてみたい気がする」

「聞いてどうする」